福岡市無料公衆無線LANサービス 「Fukuoka City Wi-Fi」について (2015/02/04)

 

【日時】平成27年2月4日(水)10:00~12:00

【訪問先】福岡市役所(福岡市中央区天神1-8-1)

【視察者】公明党立川市議団(福島正美、山本美智代、瀬順弘、大沢純一)

【対応】福岡市市長室広報戦略室広報課長・白木秀一 氏/同広報課(公衆無線LAN推進担当)主査・花田絵里 氏

 

【報告】

福岡市では平成24年4月27日から「Fukuoka City Wi-Fi」という公衆無線LANサービスの無料提供を開始している。当初はその公衆無線LANを使える拠点(施設)数は16ヶ所であったが、27年1月までの3年弱で75ヶ所まで拡大。「来街者の利便性向上」と「情報発信力強化」を目的に、これから都市間の競争が益々厳しくなっていくことが予想される中で、福岡市の魅力を向上させることを目指している。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを目前にする本市・立川市として、国内外から東京に集まってくる観光客をどう本市まで引き寄せるか。本市の魅力をアピールするインフラとしての公衆無線LANの整備はどうしても必要である、との認識から、今回、福岡市の取り組みを視察した。

 

福岡市での公衆無線LAN整備の事業は、平成22年11月に行われた福岡市長選挙での、現市長の選挙公約であった。海外でも仕事をすることの多かった市長自身が、海外に比べて日本では公衆無線LANの整備が大変遅れていることを「不便だ」と実感したことが始まりだという。それまでは行政でも議会でも「公衆無線LAN」について検討されたことは一度もなかったが、当選後、「市長の強いおもい」(担当者談)で組織と予算が整備された。

公衆無線LAN整備は、その目的が ①来街者の利便性向上 ②市の情報発信力強化 ③災害時の活用 の3つを通じて「都市の魅力向上と都市間競争力の向上を目指す」とされていることから分かるように、縦割りと言われる行政組織に横断的に関わる事業である。その為職員には、観光担当の部署がやるのか、それとも防災関係の部署が先導するのか。あるいはICT関係の部署が管轄になるのかという懸念があったが、市長は市長室に広報戦略室を新設。推進にあたっては「これが大きかった」(担当者)。

先述の通り市長がこの事業を始めるまで、行政も議会も関心は低かったが、それは民間事業者も同様であったようである。まさにトップダウンという形で駅や空港という交通拠点を中心に平成24年に「官」主導で整備が進められた。その後、JTBやNTTという大手事業者と連携して社会実験として様々な取り組みを行い、更に市内地区のまちづくり協議会とも一緒に取り組むなかで設置をはじめる民間事業者が増え、今年1月までに当初の5倍近い拡大をしている。

尚、民間事業者が自身で整備する際には、行政からの助成はないということである。

今後は更なる民間施設への設置拡大のほか、利用者の拡大、そして利用(接続)の際の利便性をさらに求めていくことになるが、その中で今後の課題は、屋外観光施設への導入と、Wi-Fiデータの解析ということだという。屋外施設は風雨などの対策が必要なことから整備負担が大きい。しかし、それ以上に大きな課題は2点目のデータ解析、つまりビッグデータの活用ということであった。

福岡市の公衆無線LANを利用する場合、現在のシステムでは利用登録の際に必要な(入力する)データはメールアドレスだけである。これでは利用者の属性把握が困難であるため、今後の運用に際して、登録者にどこまで情報を求めていくのかが課題となっている。手軽に利用してもらうためには、登録項目は少ない方がいい。一方でより細かに属性を把握するためには、項目は多いほうがいい。これは判断が難しい。

地方創成という国の政策の下、福岡市は創業特区に指定されている。ビッグデータの活用が今後の産業を大きく左右するなかで、公衆無線LANで取得したデータをどのように市の発展と新しいビジネスをつくるために活用していくか。Wi-Fiを使った情報発信力の強化と併せて、大きな課題となっているということであった。

 

【所感】

現在、福岡市の人口は150万人強。人口減少社会と言われているなかで、福岡市は20年後の人口を160万人と推計している。更に発展していく都市であるが、受け身ではない姿勢を強く感じた。それは、このWi-Fiという通信インフラ整備の目的が「どうやって東京から来てもらうか」であるというという担当者の言葉であった。

短期的には2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据えて、そして長期的には人口減少社会を迎えている我が国で東京一極集中から地方へ人の流れをどうつくっていくのか、というビジョンのなかで、福岡市がこの公衆無線LAN整備事業を行っているのである。

我々公明党立川市議団もこれまで、何度となく市内公衆無線LAN整備の必要性を議会で訴えてきた。

「地方創成」という政策は、一義的には東京から地方へ「ひと・もの・しごと」を移動していくといことだが、東京=23区部という視点では、本市も「地方」という枠組みに入る。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックという短期的視野に立った場合でも、区部に来る国内外多くの観光客をどう立川市まで来てもらうかということは、喫緊の課題である。

福岡市の観光客数、とくに外国人観光客の数は平成25年に約90万人であったのが、平成26年は100万人を超える見込みだ(推計。集計中)。

じつは福岡市でも、Wi-Fi整備と観光客数の増加に相関関係の立証はできていない。先程の属性把握の問題と、外国人観光客が空港を降りてからどこに行ったかというデータを国も持っていないためだ。つまり現段階で、Wi-Fi整備が外国人観光客を誘致するという証拠はない。

しかし、自治体レベルでのビックデータの活用はすでに始まっている。福岡市は職員でその分析を行う体制をつくるという。

これは人口規模の問題ではなく、自治体としてこれからの状況にどう攻めていくのか、という姿勢の問題だということを強く感じた。

周南コンベンションシティの推進について(2015/02/03)

【日時】2015年2月3日(火)13:00〜15:00

【訪問先】周南市役所(山口県周南市岐山通1-1)

【視察者】公明党立川市議団(福島正美、山本美智代、瀬順弘、大沢純一)

【対応】周南市地域振興部観光交流課コンベンション・国際交流推進担当係長 綿野博之 氏/同担当 内山紀美子 氏

 

【報告】

周南市は平成15年4月21日に、当日の徳山市、新南陽市、鹿野町、熊毛町が合併し誕生。合計16万人弱であった人口は、合併以降も減少し、平成26年末で15万人弱となる。

今後の人口増加策について、現市長は交流人口の増大を決定。一方で観光資源に乏しい同市としては、ビジネスの視点からの流入を目指し、平成24年にコンベンションシティの推進を始める。

周南市には収容人数1800人の大ホールを有する「周南文化会館」と、バスケットボールコートで3面、バレーボールコートで4面の広さがあるメインアリーナを有する「キリンビバレッジ周南総合スポーツセンター」があることから、新しい施設をつくらず、既存の施設を活用してコンベンション誘致を開始。現在は年間70〜80件のコンベンション誘致に成功している。

山口県下では、下関市、山口市、宇部市、長門市が先発してコンベンション誘致を行なっており、周南市は後発であることから、同市でのコンベンションについては開催にあたって他市よりも補助金の額を高めに設定している他、アフターコンベンション、つまりコンベンション参加者の会議終了後の市内での過ごし方や観光提案などにも力を入れている。

先述の通り、もともと観光資源が乏しいことが同市の弱みでもあったが、アフターコンベンションの強化の中で、コンビナートの街である特性を活かし、海上からコンビナートの夜景を観る「周南コンビナート夜景ツアー」を企画。工場夜景を観光としている川崎市(神奈川県)、四日市市(三重県)等全国6自治体と連携。チャーター船で行うために、周南市のアフターコンベンションでしか体験できない観光ツアーとして好評。また、同市コンベンション協会と駅前商店街の飲食店が連携し、飲み歩きツアーなども企画。コンベンション参加者に観光情報を提供することで、個人としてリピーターになってもれるような取り組みを推進している。

誘致、つまり企業や団体に営業活動を行うのは同課担当の職員で、様々な機会に東京を始めとした県外へ誘致活動を行なっている。その際は、全国コンベンション協会が発行するデータで同市誘致に適正な規模団体、これは市内の宿泊施設の受け入れが可能な1,300人程度を目安に当たりをつけている。

また、アジア諸国に距離的に近いことから、昨年よりインバウンドも行なっている。

コンベンション誘致を精力的に推進している周南市の、現在の課題としては以下のものが挙げられる。

・同市はスポーツ施設が充実しており、市民のスポーツ活動も盛んである。その中で、コンベンション誘致の取り組みが大きくなると、市内スポーツ施設の稼働がコンベンションにとられてしまい、市民のスポーツ活動が制限されてしまう。

・官民でコンベンションシティとしての取り組みを行おうとしているが、実績としての誘致団体数の掌握が公共施設に限られ、民間のホテルで行われているコンベンション数は正確に把握出来ていない。これは、民間から報告があがってこないことによる。その理由は、ホテル間で客がとられることを警戒して、どんな団体が自分のホテルを利用しているかが他に漏れることを警戒しているため。

・各種団体の支部の多くが山口市に集中しているため、会議なども山口市で行われることが多い。

 

【所管】

コンベンション誘致となると、やはり相応の人員を収容できる施設が必要である。周南市ではコンベンションが行われている周南文化会館とキリンビバレッジ周南総合スポーツセンターも視察をしたが、両施設とも大変立派なものであった。同市のコンベンションシティの推進は、こうした既存施設があるという強みを活かした事業であるといえる。

同様の取り組みを立川市で行うというのは、施設規模を考えると限定される。それよりも本市の強みを活かした取り組みを推進していくべきで、そういった意味では今回視察した「アフターコンベンション」の取り組みの方が、本市として参考になる点が多いと思う。コンベンション参加者の属性、つまり年齢層や職業といったものは比較的把握しやすいわけで、都内で様々行われるコンベンションの参加者に対して、立川市まで足を運んでもらう為の施策をどう進めていくのか。立川市にとっても重要である交流人口の増加に向けて多いに検討していかなくてはならない。

長野県大町市での「地域包括ケアシステム」の取り組み(2014/11/06)

 

【日時】平成26年11月6日(木)13:00~14:30

【訪問先】大町市役所(長野県大町市大町3887)

【対応】大町市民生部福祉課地域包括支援センター・所長 大塚裕明 氏

 

【報告】

大町市は本市と姉妹都市として職員交流を行っており、相互の情報交換は今後の施策立案、運用に大変有用であることから、今後早急な構築が求められる「地域包括ケアシステム」の取り組みについて視察した。

長寿県である長野県は、2013年に厚生労働省より発表された国民の平均寿命でも、男女ともに全国一位であると発表されている(男性80.88歳、女性87.18歳)。それだけに高齢化対策は他県にも増して大きな課題であるが、その中でも訪問した大町市は県平均より高い率で推移していくことが国立社会保障・人口問題研究所の人口推計でも示されている。現在でも高齢化率は32.91%と県下でもトップクラスとされている(立川市は22.50%)。

そうした高齢化対策として地域包括ケアシステムの構築を考えるにあたり、大町市では「介護予防1/100プロジェクト」を掲げ、推進している。

高齢化が進むといっても、当然ながら高齢者になったからといって全員が介護を必要とするわけではない。いわゆる団塊の世代が75才を迎える2025年が、高齢化対策では一つのピークとされているが、大町市ではその2025年に向けて、要介護認定を受ける後期高齢者の割合を2013年度比で△1%、つまり△1/100にすることを目標としている。そうすることによって、推計では2013年度と同程度の人数になるという。

また、大町市として介護が必要となった原因を分析したところ、認知症(1位)、脳血管疾患(2位)、膝や腰の病気(3位)といった予防事業で減少できる病気が多いことも判明したことから、介護予防に力を入れている。つまり、介護予防で要介護者を増やさないという計画のなかで、地域包括ケアシステムの構築を目指している。これは地方財政がどこも緊迫している状況で、オーバースペックなシステムをつくらない意思であるとも言える。

この△1/100のための取り組みとして大町市では、自身が介護支援を必要にならないようにするための体操(「おおっ!マーチde体操」)や、この体操を補助する「たいそうサポーター」育成。また、要介護の原因1位である認知症を地域で支えるものとしての「認知症サポーター」の育成などを行っている。この辺りは他の行政と比較して、取り立てて目立ったものではないが、大町市は、市民一人一人がこれに取り組みときのハードルを極力低くする努力をしている。

例えば認知症サポーターの育成などは、1度講習を受けたからといって知識が定着するものではない。そのためにフォローアップの勉強会を行っているが、その際に、毎回参加することを強要するようなことはない。むしろ、「最初と最後だけしか勉強会に参加できなかったという方がおりますが、そういう方はかえって嬉しい」という話が大塚所長からあった。当然、毎回参加できればその方がいいのだが、「最後に参加してくれた、ということは、その参加できなかった間に、おそらくずっと認知症のことを気に留めていてくれた、ということ。そういう意識が広がってくれることが大切」(大塚所長)だというのが、この大町市の取り組みについての考え方である。

「1/100プロジェクト」という名称が示すとおり、市民が実感として手の届くゴール設定をするということ。この視点は大変重要である。

第76回全国都市問題会議 (2014/10/09~10)

【日程】平成26年10月9日・10日

【場所】高知県立県民文化ホール

【報告】

10月9日・10日の2日間、高知県高知市で第76回全国都市問題会議が開催され、全国から集まった区市議会議員とともに出席しました。この全国都市問題会議は毎年1回開催され、地方自治や都市問題についての研修が行われます。この会議の第1回目は昭和2年ということで、大変歴史あるものでもあります。

今回の全国都市問題会議の議題は「新たなコミュニティの構築をめざして」。これまで地域コミュニティの核とされてきた自治会、町会の加入率が減少しているというのは、全国的な課題であります。一方で近年、様々な災害が起こっているなかで、地域の繋がりというものもより強く求められています。新たなコミュニティをどうつくっていくか、大きな課題です。

自治会や町内会といった、これまでの地縁にもとづいた地域のつながりが、全国的に薄れてきているのが実情です。2007年に内閣府が行った調査では、自治会や町内会の活動に「参加していない」という回答が、半数以上という結果がでています。しかし、一方で防犯・防災や福祉、子育てなどで地域のつながりに期待している住民も多い中で、今、新たなコミュニティ――集まり方、つながり方をどう築いていくのか。

多くの研究発表が行われたなかで、特に関心を持ったのが、今回の開催市である高知市の取り組み。これは子ども達がまちづくりに参加する制度で、子ども達自身が「地域をこうすればいいのでは」という提案をし、それを子ども達が審査するというものでした。これは子ども達を育成するだけでなく、子どもを核として幅広い年代層の人たちがまちづくりに関わっていくことになり、そうしたなかで地域コミュニティが再構築されていくということです。この「子どもを主体とした」地域づくりは、大いに研究していきたいところです。

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地域包括ケアシステム「尾道方式」の視察(2014/08/19)

ご報告がおそくなりましたが、先月8/19(火)~8/21(木)まで初めての「視察」に行ってまいりました。

これから全国的に各自治体が取り組まなければならない高齢者の医療・介護の仕組である「地域包括ケアシステム」の、その先駆けである「尾道方式」。
「今治タオルプロジェクト」という今治タオルを全国ブランドにした取組。
さらに、ICTを活用した市民の健康づくりと、それに観光、防災までを連携してしまう欲張りな(そしてとても上手くできているという)「スマイル松山」という取組。

その視察ということで広島県と愛媛県を訪問してきました。このうちの「地域包括ケアシステム」について報告させていただきます。

【日時】2014年8月19日(火)13:40~15:40
【訪問先】尾道市立市民病院(広島県尾道市新高山3-1170-177)
【対応】尾道市立市民病院 庶務課長・松谷勝也様、地域医療連携室・中谷公香様
【報告】
地域包括ケアシステムとは、高齢者の生活を在宅、つまり病院以外の自宅やケア付き高齢者住宅での生活を中心とした、医療、介護、福祉、そして地域住民も参加した連携・協働の取り組みをいいます。

「地域包括ケアシステム」という言葉じたいは古く、1970年代に広島県御調町(当時。現在は尾道市と合併)の町立病院(現・町立みつぎ総合病院)の山口昇医師が医療と福祉の連携・統合を述べる際に使用したとされています。

1980年代、御調町の町立病院内に町役場の福祉保健担当と社協(社会福祉協議会)の事務所を設置した健康管理センターが開設され、医療・福祉連携の体制がつくられました。この取り組みは厚生労働省がその後、介護保険をつくる際にも参考にされました。

(参考:「事例を通じて、我がまちの地域包括ケアを考えよう「地域包括ケアシステム」事例集成~できること探しの素材集~」平成26(2014)年3月 株式会社 日本総合研究所)

視察をした広島県尾道市は地域包括ケアシステム発祥の地とされています。先進事例として、この「尾道方式」は有名になりましたが、実際は、市民病院とJA病院を核とした尾道市の中央部、市街地区域(旧尾道市地域)でのやり方を尾道方式と呼びます。

合併後に御調町でのいわゆる包括ケアの成功例を市内で展開しますが、それぞれの地域性もあり、旧尾道市地域では旧御調町地域とは進め方が違い、もう一つの合併先である旧向島町では、その地域でのやり方で進めていくことになったため、こうした違いがあるということでした。

今回私たちは、その「尾道方式」の核の一つである尾道市立市民病院で話を伺いました。

先進的とされるこの取り組みが成功事例に至る一番の要因は、その発祥である旧御調町、そして3つの各地域に共通する“強力なリーダーシップ”の存在であり、尾道市では医師会がその役目を担いました。

また、尾道市では地元の大学か遠方の大学であるかは関係なく、卒業して資格を得た医師が、地元尾道市に戻り親の病院・診療所を継ぐケースが多く、代々続く「かかりつけ」のお医者さんが多い、とのこと。地域包括ケアシステムの中心は訪問診療、訪問介護となりますが、尾道の地域では、かかりつけ医に家まで来てもらって診てもらう、という「往診」の文化が昔から強かったことが、その特徴として挙げられます。

さらに、これも長く続いているということでしたが、医師会として毎月20日に「二十日会」と称する親睦会を行っており、日常的に顔の見えるつながりを持っていることがリーダーシップを発揮できた要因であるとも考えられます。

この「顔の見える」ということが尾道方式での重要な文化の一つになっているようで、例えば地域包括ケアの連携のなかで、病院の地域医療連携室がクリニック(開業医)の方に病院作成の広報紙を配る場合でも、郵送に頼らずに直接訪問して渡すようにしているとのことでした。これによって日常的に病診(病院と診療所)連携、病病(急性期病院と療養型病院)連携を図っています。

在宅ケアがもともと根付いている地域ではありますが、それでも退院後の行き先の一つである特別養護老人ホーム(特養)は数年待ちという状態であるとのことでした。当然、在宅を希望されない家庭もあるそうですが、その中で話し合い、在宅への流れをつくっているということです。

そうした入院から在宅への取り組みの特徴としては2つ挙げられます。

その一つが「在宅支援看護師」の存在です。これは、入院前から入院期間にかけて在宅を見据えたケアプランを作製し、スムーズに在宅支援につなげることを担当する看護師で、これを入院・外来の各部署に配置。地域医療連携室とともに「良質な退院支援」を行っているということです。

そしてもう一つが「退院前ケアカンファレンス」、つまり退院前に退院後のことについて検討会をもつわけですが、これにその患者に関係する全員が参加することです。

主治医、看護師、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、在宅での主治医、ケアマネージャー、訪問看護、訪問介護のほか、ときには介護タクシーの事業者も交えての会議で、「顔の見える」連携をとっています。15分という会議時間(これは15分と決めているそうです)の中で、病院から在宅医療・介護までの患者にとって「切れ目のない」対応をするために他職種間での情報交換・情報共有を行なっています。

関係者全員が参加するということで、当然、業務量の増加とともに負担感も大きくなるのではということを伺いました。それについては「慣れる」ということもありますが、やはり患者満足度の向上といったところで成果があらわれていることがやり甲斐に繋がっており、負担感は感じないとの回答がありました。

 

【視察所感】
一般に高齢化率(65才以上の人口比率)が7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢化社会」と言われています。(WHO定義)

日本の高齢化社会は1970年代から始まるわけですが、それが1990年代半ばで高齢社会となりました。つまり日本が高齢化社会から高齢社会に至るまで24年です。
一方で同じように高齢化社会から高齢社会に至るまでの年月は、フランスで114年、スウェーデンで82年、ドイツでも42年かかっています(参考:公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」より)。日本の高齢化がどれだけ早いかが分かります。そして今後、団塊の世代が75才になる2025年までには医療・介護費の急増が当然予想されるます。

医療費の削減が日本全体として命題となる中で、制度的にも入院から在宅への流れは今後不可逆的であろうかと予想されます。

※ちなみに70才以上の方が緩和ケアを受ける場合で、入院で医療費が13万円強に対して在宅で医療・介護費が7万円ほどと、およそ在宅医療で半減されるという試算あり。(3ヶ月にまたがるケース。高額療養費制度での負担上限あり(「在宅医療の推進について」平成25年3月4日 岐阜県政策研究会作成資料より)

今後、立川市で地域包括ケアシステムの構築を求められる中で、当面する課題としては
・立川市において、今後在宅療養患者がどれくらいの数になるかの推計
・退院先(自宅、ケア付き高齢者住宅)の確保
・日常生活圏域(30分で駆けつけられる圏域)の設定
・圏域における在宅支援診療所、訪問介護、デイサービス等の誘導、整備
・自治会、NPOなどの支援体制
であろうかと考えます。尾道方式としての「顔の見える」体制づくりをいかに取り入れるか。また、尾道方式が医師会主導だったのに対しての、立川がどういった主導体制をつくれるのかが、私たちの地域に合った「立川方式」をつくる鍵ではないでしょうか。

【視察先自治体情報】
広島県尾道市
・人口=139,333人(立川市(179,085人)の0.78倍)
・面積=284.85㎡(立川市(24.38㎡)の11.7倍)
・平成17年に尾道市、御調町、向島町が合併し、現在の尾道市となる。

以上