ご報告がおそくなりましたが、先月8/19(火)~8/21(木)まで初めての「視察」に行ってまいりました。
これから全国的に各自治体が取り組まなければならない高齢者の医療・介護の仕組である「地域包括ケアシステム」の、その先駆けである「尾道方式」。
「今治タオルプロジェクト」という今治タオルを全国ブランドにした取組。
さらに、ICTを活用した市民の健康づくりと、それに観光、防災までを連携してしまう欲張りな(そしてとても上手くできているという)「スマイル松山」という取組。
その視察ということで広島県と愛媛県を訪問してきました。このうちの「地域包括ケアシステム」について報告させていただきます。
【日時】2014年8月19日(火)13:40~15:40
【訪問先】尾道市立市民病院(広島県尾道市新高山3-1170-177)
【対応】尾道市立市民病院 庶務課長・松谷勝也様、地域医療連携室・中谷公香様
【報告】
地域包括ケアシステムとは、高齢者の生活を在宅、つまり病院以外の自宅やケア付き高齢者住宅での生活を中心とした、医療、介護、福祉、そして地域住民も参加した連携・協働の取り組みをいいます。
「地域包括ケアシステム」という言葉じたいは古く、1970年代に広島県御調町(当時。現在は尾道市と合併)の町立病院(現・町立みつぎ総合病院)の山口昇医師が医療と福祉の連携・統合を述べる際に使用したとされています。
1980年代、御調町の町立病院内に町役場の福祉保健担当と社協(社会福祉協議会)の事務所を設置した健康管理センターが開設され、医療・福祉連携の体制がつくられました。この取り組みは厚生労働省がその後、介護保険をつくる際にも参考にされました。
(参考:「事例を通じて、我がまちの地域包括ケアを考えよう「地域包括ケアシステム」事例集成~できること探しの素材集~」平成26(2014)年3月 株式会社 日本総合研究所)
視察をした広島県尾道市は地域包括ケアシステム発祥の地とされています。先進事例として、この「尾道方式」は有名になりましたが、実際は、市民病院とJA病院を核とした尾道市の中央部、市街地区域(旧尾道市地域)でのやり方を尾道方式と呼びます。
合併後に御調町でのいわゆる包括ケアの成功例を市内で展開しますが、それぞれの地域性もあり、旧尾道市地域では旧御調町地域とは進め方が違い、もう一つの合併先である旧向島町では、その地域でのやり方で進めていくことになったため、こうした違いがあるということでした。
今回私たちは、その「尾道方式」の核の一つである尾道市立市民病院で話を伺いました。
先進的とされるこの取り組みが成功事例に至る一番の要因は、その発祥である旧御調町、そして3つの各地域に共通する“強力なリーダーシップ”の存在であり、尾道市では医師会がその役目を担いました。
また、尾道市では地元の大学か遠方の大学であるかは関係なく、卒業して資格を得た医師が、地元尾道市に戻り親の病院・診療所を継ぐケースが多く、代々続く「かかりつけ」のお医者さんが多い、とのこと。地域包括ケアシステムの中心は訪問診療、訪問介護となりますが、尾道の地域では、かかりつけ医に家まで来てもらって診てもらう、という「往診」の文化が昔から強かったことが、その特徴として挙げられます。
さらに、これも長く続いているということでしたが、医師会として毎月20日に「二十日会」と称する親睦会を行っており、日常的に顔の見えるつながりを持っていることがリーダーシップを発揮できた要因であるとも考えられます。
この「顔の見える」ということが尾道方式での重要な文化の一つになっているようで、例えば地域包括ケアの連携のなかで、病院の地域医療連携室がクリニック(開業医)の方に病院作成の広報紙を配る場合でも、郵送に頼らずに直接訪問して渡すようにしているとのことでした。これによって日常的に病診(病院と診療所)連携、病病(急性期病院と療養型病院)連携を図っています。
在宅ケアがもともと根付いている地域ではありますが、それでも退院後の行き先の一つである特別養護老人ホーム(特養)は数年待ちという状態であるとのことでした。当然、在宅を希望されない家庭もあるそうですが、その中で話し合い、在宅への流れをつくっているということです。
そうした入院から在宅への取り組みの特徴としては2つ挙げられます。
その一つが「在宅支援看護師」の存在です。これは、入院前から入院期間にかけて在宅を見据えたケアプランを作製し、スムーズに在宅支援につなげることを担当する看護師で、これを入院・外来の各部署に配置。地域医療連携室とともに「良質な退院支援」を行っているということです。
そしてもう一つが「退院前ケアカンファレンス」、つまり退院前に退院後のことについて検討会をもつわけですが、これにその患者に関係する全員が参加することです。
主治医、看護師、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、在宅での主治医、ケアマネージャー、訪問看護、訪問介護のほか、ときには介護タクシーの事業者も交えての会議で、「顔の見える」連携をとっています。15分という会議時間(これは15分と決めているそうです)の中で、病院から在宅医療・介護までの患者にとって「切れ目のない」対応をするために他職種間での情報交換・情報共有を行なっています。
関係者全員が参加するということで、当然、業務量の増加とともに負担感も大きくなるのではということを伺いました。それについては「慣れる」ということもありますが、やはり患者満足度の向上といったところで成果があらわれていることがやり甲斐に繋がっており、負担感は感じないとの回答がありました。
【視察所感】
一般に高齢化率(65才以上の人口比率)が7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢化社会」と言われています。(WHO定義)
日本の高齢化社会は1970年代から始まるわけですが、それが1990年代半ばで高齢社会となりました。つまり日本が高齢化社会から高齢社会に至るまで24年です。
一方で同じように高齢化社会から高齢社会に至るまでの年月は、フランスで114年、スウェーデンで82年、ドイツでも42年かかっています(参考:公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」より)。日本の高齢化がどれだけ早いかが分かります。そして今後、団塊の世代が75才になる2025年までには医療・介護費の急増が当然予想されるます。
医療費の削減が日本全体として命題となる中で、制度的にも入院から在宅への流れは今後不可逆的であろうかと予想されます。
※ちなみに70才以上の方が緩和ケアを受ける場合で、入院で医療費が13万円強に対して在宅で医療・介護費が7万円ほどと、およそ在宅医療で半減されるという試算あり。(3ヶ月にまたがるケース。高額療養費制度での負担上限あり(「在宅医療の推進について」平成25年3月4日 岐阜県政策研究会作成資料より)
今後、立川市で地域包括ケアシステムの構築を求められる中で、当面する課題としては
・立川市において、今後在宅療養患者がどれくらいの数になるかの推計
・退院先(自宅、ケア付き高齢者住宅)の確保
・日常生活圏域(30分で駆けつけられる圏域)の設定
・圏域における在宅支援診療所、訪問介護、デイサービス等の誘導、整備
・自治会、NPOなどの支援体制
であろうかと考えます。尾道方式としての「顔の見える」体制づくりをいかに取り入れるか。また、尾道方式が医師会主導だったのに対しての、立川がどういった主導体制をつくれるのかが、私たちの地域に合った「立川方式」をつくる鍵ではないでしょうか。
【視察先自治体情報】
広島県尾道市
・人口=139,333人(立川市(179,085人)の0.78倍)
・面積=284.85㎡(立川市(24.38㎡)の11.7倍)
・平成17年に尾道市、御調町、向島町が合併し、現在の尾道市となる。
以上