岡山型持続可能な社会経済モデル構築総合特区(在宅介護総合特区)の取り組みについて (2016/01/20)

【日時】 平成28年1月20日(火)13:00~16:30

【訪問先】 岡山市役所(岡山市北区大供1-1-1)

【視察者】 公明党立川市議団(高口靖彦、瀬順弘、大沢純一)

【対応】 岡山市保健福祉局医療政策推進課・課長 福井貴弘 氏

 

【報告】

岡山市の要介護認定率は全国平均よりも2%程高く、介護保険料が6,160円(平成27年)と県内15市中2番目、全国の政令指定都市のなかでも3番目に高いという状況にある。将来予測では、この介護保険料が平成37年(2025年)には9,000円程度まで上がり、全国平均の8,200円をかなり上回るとされている。

こうした状況のなか、岡山市が調査したところによると、市民が医療、介護を受けたい場所として市民の3割以上、さらには終末期に過ごしたい場所としては4割以上が「自宅」を希望しているという。国の医療・介護政策の方向性として、在宅医療を中心とした地域包括ケアシステムの構築が全国の基礎自治体で求められるなかで、それに併せて今後の社会保障費増大をどう抑制していくか、ということも欠くことのできない視点である。

同市には岡山大学病院や独立行政法人国立病院機構岡山医療センターを中心に医療機関が多く、「医療都市」を標榜している。医療及び介護機関が充実しているという環境と、市保健福祉局に厚生労働省出向者が局長として在籍していた経緯――余談であるが、岡山市は「点字ブロック」や「民生委員制度」の発祥の地で、元来そうした福祉的な視点を持つ土地柄でもある――もあり、国に特区申請。平成25年2月に全国初の在宅介護総合特区に指定され、これまで11項目を特区として国に提案している。

その中で第一に挙げられたのが「通所サービスに対する自立支援に資する質の評価の導入(デイサービス改善インセンティブ事業)」である。役所的言い回しの典型のようで何のことか分からない方も多いと思うが、つまりこういうことだ。

現行の介護保険制度では、利用者の要介護度が重くなるほど事業者の報酬が増える仕組みになっている。これは一方で、利用者の身体機能が改善に向かうと事業者の報酬が少なくなってしまうことにもなる。これはある意味、事業者側が努力すればするほど経営が立ち行かなくなるという矛盾を抱えている。

このインセンティブ事業は、そうした矛盾を解消することを目指した制度である。

例えば要介護度「3」だった利用者が、事業者のリハビリなどの取り組みによって身体機能が回復した結果、要介護度が「2」になったとする。これまでであれば、要介護度3と2の報酬額の差は、事業者としては減収となっていた。これを、その差額分は奨励金として事業者に与えるというのがこのインセンティブ事業である。

これは事業者の「質」を評価するものであり、事業者に適正な評価を与えることによって事業改善意欲の向上が期待できる。また、利用者本人はQOLが向上し、それによって本人を介護する家族の負担も軽減されることに繋がる。

平成26年6月に始まったこの事業には、市内約290事業所中151事業所が参加(手挙げ、つまり希望する事業所が申請する形をとっている)。質の評価指標5項目のうち3項目以上達成した60の事業者を「指標達成事業者」として26年度末に公表した。(達成できなかった事業所も、そうした改善の取り組みに意欲的だとして同様に公表している。)

実は、この平成26年度の第一回目の取り組みには、先の奨励金は事業者に支給されていない(27年度に実施予定)。

岡山市ではこの事業を行うにあたって、まず市内の通所介護事業所全体の質の向上を目指した。一口に通所介護(デイサービス)といっても、事業所によってその形態は様々で、身体機能の回復を主な取り組みにしているところもあれば、認知症のケアを中心にした事業所、あるいは家族の負担を軽減するため利用者を預かることに特化した事業所もある。そうした事業所「機能」の違いを超えて、「利用者の自立」を目指した評価指標を目指した。(この指標作成には厚労省補助金(補助率10分の10)を活用。)

この評価作成とともに、同事業の創設にあたっては厚労省や有識者から様々な意見が出された。

最も中心的なものは、この事業の根幹であるインセンティブについてであった。

介護報酬は介護保険制度の根幹であり、特区としての特例であっても実施はできない、という意見や、要介護度が下がる見込みのある利用者を選別することに繋がるのではないか、という懸念が表明されたという。

しかし、結果的にこの評価指標(アウトカム評価)は平成27年6月30日に閣議決定された『「日本再興戦略」改訂2015―未来への投資・生産性革命―』に盛り込まることになった。政府はこの評価指標の効果検証として介護サービスの質の向上に資するか分析するとともに、介護サービスの室の評価の仕組みづくりにについて「着実に検討を進める」ことになった。

こうした介護サービスの質についての評価を検討する「先行自治体検討協議会」というものが存在し、現在は岡山市が事務局となり、川崎市、品川区、名古屋市、福井県、滋賀県の6自治体で構成。今後は江戸川区も参加する見通しであり、さらに平成29年度からは協議会から研究会への発展も検討されている。

その他、岡山市の特区としての取り組みでは、現在介護保険の給付対象となっていない、いわゆる介護ロボットなどを「介護機器貸与モデル事業」として利用者に1割負担で貸与する事業。また、「介護予防ポイント事業」という、高齢者自らが介護予防に取り組んでいくことを進めるポイント制度などがある。

【所感】

岡山市でのこうした医療・介護についての取り組みは、一貫して行政が旗振り役、つまりリーダーシップをとって行っているが、これには一つの経緯がある。

老朽化した岡山市立市民病院が平成27年5月に建て替えられたが、建て替えにあたっては、そもそも市民病院が必要かどうかという議論がおこり、協議会がつくられた。その協議のなかで「断らない病院」「周辺地域の保健医療福祉関係の連携強化」という市民病院としての役割を市がリーダーシップをとってまとめてきた。そうした姿勢を医師会を始めとした地元の医療団体が評価したことで、行政主導で取り組みが進められたということであった。

医療・介護分野に限らず、先進的な施策を行っている行政には、必ずと言っていいほどリーダーシップを取る方、あるいは団体が存在する。

今回の視察は「特区」の取り組みであって、そのまま立川市ですぐに展開できる施策ではない。しかし、この特区としての施策が全国的な取り組みに拡大していったとき、それを立川市でどのように形づくり、実行していくのか。それには知見も必要であるが、やはり効果ある運用をしていくためにはリーダーシップをとる存在が欠かせないと考える。

今後展開が予想される大変重要な施策として、私たちは更に研鑽を深めたい。

 

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