(岡山・総社市)ひきこもり 顔の見える支援

2020(令和2)年2月7日(金) 公明新聞7面

全国で115万人と推計される「ひきこもり」。支援の手が届きにくいことから”地域福祉の最後の課題”ともいわれる。その課題と真正面から向き合い、これまで30人以上のひきこもり当事者の社会参加を支援してきた岡山県総社市の取り組みを紹介するとともに、市の対策をサポートしてきた識者に話を聞いた。

地域で支えて、社会参加33人

総社市役所から徒歩5分ほどにある常設型の居場所「ほっとタッチ」。ひきこもり状態にある人が一歩外に踏み出すための受け皿として、民家を借り上げたものだ。利用時間は午後3時から5時で、いつでも、誰が来てもいい。

「よう来たねぇ!」。この日、3時になると、すぐに2人の男性が入ってきた。ひきこもりサポーターの山本繁さん(76)は、ホットコーヒーを差し出しながら、「最近どうしよった?」と話し掛けた。

山本さんは月2回ほど当番に来ている。最初は何も話さずゲームばかりしていた人も、「こっちに来て話そうや~」と声を掛けるうちに会話の”キャチボール”ができるようになった。個人的な相談をしてくる人や、就労に踏み出した人もいる。

 

サポーター常駐

ほっとタッチには、平均して1日4人程度の利用者が訪れる。サポーターは当番制で2人常駐し、お好み焼きパーティーなどのイベントも開催する。

サポーターは市社会福祉協議会(以下、社協)が実施する年5回の養成講座を受講すれば登録でき、現在80人近くいる。月1回の定例ミーティングでは、ほっとタッチ利用者の情報を共有し、課題解決へ知恵を出し合う。

現在、国の事業として都道府県や政令市には「ひきこもり地域支援センター」が設置されているが、対象者が多過ぎるため、きめ細かな支援は難しい。この点、総社市は身近な地域の人たちがサポーターとなり、支えていく”顔の見える支援”が特長だ。

 

少なくとも207人

同市がひきこもり支援を始めたきっかけは、2014年に立ち上げた生活困窮支援センターに次々と寄せられる相談だった。「働き盛りの息子がひきこもってお金に困ってるといった相談が多かった」(市福祉課)。200件のうち、40件余りはひきこもりに関する内容だった。

社協は15年8月、学識者や市幹部職員、NPOなどで構成する「ひきこもり支援等検討委員会」を設置し、「ひきこもりとは何か」から議論を重ねた。16年1月からは、地元の事情に精通し、市に700人以上いる民生委員や福祉委員が各地区ごとに集まり、匿名で情報を出し合う方式で実態調査を実施。その結果、市内に少なくとも207人のひきこもりの人がいることが分かった。

 

相談6401件

17年4月には、社協への委託事業として市独自のひきこもり支援センター「ワンタッチ」を開設した。当時、一般市レベルでのセンター設置は全国的に珍しかった。専門職員を2人配置し、相談支援のほか、ボランティアやハローワークへの同行支援、サポーターの養成、居場所や家族会の運営など幅広い活動を行っている。

同センターへの相談件数は、昨年12月末時点で6401件に上る。内訳は、▽訪問1372件▽来所2500件▽電話2117件▽メール412件だった。センターの支援を受けて、ボランティア体験や就労、進学といった形で、これまで33人が社会参加している。

日下部祐子センター長は、「ひきこもりは個人ではなく社会全体の問題。これまで精神保健や医療の面での支援が主だったが、身近な地域の人たちが手を差し伸べて支えることが重要だ。ひきこもりの方々が、社会へ踏み出そうと思える地域づくりを今後も進めていきたい」と語っている。

 

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