公営住宅の単身入居者 死亡後の家財放置で自治体に通知

平成29(2017)年2月18日(金)付

速やかな移動、処分 促す

国土交通省は1月25日、全国の都道府県の公営住宅担当者に対し、「公営住宅における単身入居者死亡後の残置(ざんち)物への対応方針の策定について」

と題する通知を発信した。これは各地で起きている入居者の死亡後に、家財道具などが長期間放置される問題について、自治体による残置物の速やかな移動、保管、処分を促すため、取り扱いを明文化したもので、自治体関係者から歓迎されている。通知は、公明党の山下浩昭大阪府議と山本香苗参院議員の連携プレーで実現した。

放火や環境悪化を防ぐ 国交省が取り扱いを明文化

内閣府の高齢社会白書によると、2014年の65歳以上の単身世帯数は595万世帯で、91万世帯だった1980年の実に6.5倍に達したという。

今回の通知は、こうした高齢化の進展を踏まえ、今後も増えると予想される「公営住宅の単身入居者が家財道具を残したまま死亡するケース」に備えるもの。特に相続人がなかなか特定できない場合に、公営住宅に残置された家財などについて、財産権を侵害しないように留意し、公営住宅法や民法の規定に則った上で、残置物の確認、移動、保管などを行うよう明示したことが大きい。

通知には同省が昨年8月、全国の公営住宅を有する1676自治体を対象に行なった「残置物の取扱いに関する調査結果」を添付。回答の中で家財処理の先進的な事例については、参考として紹介している。

東大阪の事例がきっかけ

事態が動いたきっかけは15年7月ごろ、山下府議が大阪府東大阪市内にある府営住宅の住民Aさんから、「階下の1階に住んでいた単身入居者が亡くなった後、長い間、家財道具が部屋とベランダに放置されたままで困っている。もしベランダに放火でもされたら、上の住民は避難できないかもしれない」と、切実な相談を受けたことだ。

住民が最も不安視したのは、1階のベランダに放置された木製の収納ケースやビニールシート、日用雑貨などの家財道具。Aさんによると、野良猫がベランダで出産したり、ゴキブリが多く発生するなど、衛生上も問題が。さらに植え込みとベランダの間のスペースが近所の中高生らのたまり場になっており、隠れてタバコを吸う姿も目撃されていた。

実情を聞いた山下府議は、府当局に対応を要請。昨年3月議会の一般質問でも取り上げ、府側から計190戸の府営住宅が同様の状態になっていて、家賃収入も滞っているとの答弁を引き出した。また、府側は相続人の特定が進まず家財道具などが整理できない状況を打破するため、課題を共有する自治体と共に、国に対し法制上の整備を求めることも明らかにした。

東大阪市の府営住宅の入居者死亡から約3年。山下府議らの粘り強い訴えが府の動きを後押しし、昨年6月に相続人の特定、了解取り付けが進み、トラック6台分の家財道具が撤去され、住民に感謝された。

続いて6月28日には、大阪府と和歌山県が共同し、石井啓一国土交通相(公明党)宛てに「公営住宅の単身入居者死亡に係る住宅返還に関する要望書」を提出。これを受け国交省は8月、一人暮らしの入居者の死亡後に、公営住宅に残された家財道具などをどう処理するかについて、全国の自治体を対象にアンケート調査を開始した。

本紙報道を通じ公明府議と山本さんが連携

こうした事実を報道した本紙9月2日付7面記事を見た山本参院議員は、山下府議や関係者から関連情報を聞き取った上で、昨年11月8日の参院厚生労働委員会で、国交省などの対応をただした。

この中で山本さんは東大阪市の事例を紹介しながら、大阪府内だけでも約190戸の府営住宅が単身入居者の死亡後に家財などが放置されたままになっているとし、「入りたい人がたくさんいるのに新たな入居者が入れない。それだけでなく、長期にわたって家賃が未収になっている」と指摘。国交省として、ぜひ前向きに対応していただきたいと迫った。

これに対し、同省の由木文彦住宅局長は、「公営住宅の残置物の円滑な処理、保管を行うため参考となるような事例をきちんと各公共団体に示した上で、関係省庁とも協議し、要点についてはガイドラインのような形で普及していきたい」と答えていた。

今回の通知を受けた大阪府住宅経営室経営管理課の吉田裕彦参事は、「単身入居者の死亡後、家財道具の移動や処分を進める際の法的な裏付けとなる文書が今までなかっただけに、ありがたい」と述べた。

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