第9回生活保護問題議員研修会(2017/08/25〜26)

【日時】 平成29年8月25日(金)~26日(土)
【研修先】 信州大学長野(工学)キャンパス(長野県長野市若里4-17-1)
【参加者】 大沢純一
【内容】 第9回生活保護問題議員研修会

【詳細報告】

第9回となる生活保護問題議員研修会「「貧困対策はどこに向かうのか 長野で生活保護を考える」と題して信州大学長野(工学)キャンパスで行われ、今回初めて参加した。

2日に渡る研修の1日目では、最初に花園大学の社会福祉学部教授であり人権教育研究センター所長の吉永純氏が基調講演を行った。

講演では、ここ数年間で貧困関連書籍の出版数が増えていることを紹介し、この問題の関心が高まっていることを指摘。実際に厚生労働省が示すデータ(「平成28年国民生活基礎調査の結果」(2017年6月27日))でも、およそ国民の6.4人に1人が貧困状態にあることを紹介した。
さらに、等価可処分所得の中央値が平成9年をピークに低下しており、その中央値の半分(貧困線)とされる相対的貧困率も上昇傾向にあることが示された。そしてその相対的貧困率を属性でみた場合、男性では20代が最も多く、女性では70代が多いことに言及。女性は年金の問題で高齢になると貧困率が上昇するとした。

そうした経済状況のもとに高齢者世帯の生活保護率が増加している。
厚生労働省のデータ(2017年1月20日厚生労働関係部局長会議資料)でも平成25年12月以降は高齢者以外の世帯では前年同月比で世帯数がマイナスになっているのに対して、高齢者世帯だけが一貫してプラスとなっている。

そのなかで2013年からの生活保護費の引き下げは影響が大きいことを指摘した。

具体的には生活扶助費が最大で20,000円削減され、住宅扶助費も最大で8,000円削減されたことで、高齢者ではおよそ5割の世帯で月2,000円、年額24,000円。母子世帯の6割以上で月10,000円、年額120,000円もの影響があったとした。こうした生活保護世帯では近年の食品価格の上昇もあり、家計のエンゲル係数が高まっている。

一方で生活保護に対する世間の見方は厳しくなっており、制度としても資産申告書の年1回提出が「義務化」されたことや、就労支援が生活保護受給者の状態をわきまえないで行われることなどが問題とされた。また、医療扶助費の増加原因として生活保護では無料で受診できることが問題という声も聞かれるが、生活保護受給者が他の患者よりも受診回数が多いというデータは存在しないことも指摘された。

そうした現状のもと、議員として各自治体の生活保護行政をチェックする必要や、子どもをはじめとした貧困の実態を調査して、一般市民と生活困窮者・生活保護者の課題を同列で扱い、分断を生じさせない取り組みをすることを求めた。

基調講演に続き、貧困や家庭問題などを扱う漫画家である、さいきまこ氏が「メディアから読み取る「生活保護と子どもの貧困」を題して講演を行った。

さいき氏は最初に、「自己責任」という言葉が広まっている現代で、貧困は本当に自己責任なのか、との問題を提起した。
この自己責任論の根底にあるのは「格差の肯定」であるとし、一例として2014年に千葉県銚子市でおこったシングルマザーが中学2年生の娘を殺害した事件を挙げた。
これは「お金の不自由はさせたくない」という母の思いが借金を重ねることになり、家賃滞納で退去を求められた母が自身も自殺をするつもりで娘を殺してしまった事件である。
この事件に対しては「我慢させるのも教育では」という世論が起こったが、それは家庭の貧困という子どもに何の責任もない「格差」を肯定することになり、お金がないなら「分をわきまえるべき」と言っているのに等しい、として自己責任論を否定した。

そして貧困を理解するのに必要なのは想像力ではなく知識だとして、報道等で伝えられた様々な声を紹介しながら、貧困の実態を伝えた。

続いての講演では、健和会病院小児科医の和田浩氏が医療現場から見える子どもの貧困を伝えた。

講演では所得における子どもの健康格差としてカナダのデータが示された。
そこでは貧困層の子どもは健康状態が悪い割合が大きいこと、さらに健康状態の格差が10代で差がでてくることが分かる。
和田氏は、こういったデータは海外では多いものの、日本ではほとんど調査が行われていないと指摘。子どもの貧困がプライバシー等の問題で公表されないことが、世間での「子どもの貧困は感じられない」という声に繋がっているという。

また、世帯の仕事状況により乳児の死亡率が異なり、無職である世帯は常用勤労者の世帯よりも死亡率が10倍近く大きくなるという統計も示された。

さらに子どもの学力の面では、低所得者世帯で3時間以上勉強する層よりも高所得世帯でまったく勉強しない層の方が成績が良いという分析も披露。貧困と子どものQOLの相関を指摘した。

和田氏は医師としてこうした貧困世帯を見たときに「おそらく発達障害を持った人が多い」と言及。そのなかでは発達障害の治療をできないまま大人になった人も多いのでは、と認識していると言い、子どもの貧困を援助するにあたっては発達障害について学ぶことが力になる、とした。

その他、1日目の報告では、議員として各自治体の生活保護行政に対するチェックの仕方などが示された。

2日目は「子どもの貧困と自治体のとりくみ」についての分科会に参加した。

子どもの貧困については、2009年に国が「子どもの7人に1人が貧困」と発表したことから、この年が「子どもの貧困元年」とされる。

分科会では、世田谷区の元職員で全国公的扶助研究会運営委員や生活保護問題対策全国会議事務局次長を務める田川英信氏と、NPO法人・CPAO(シーパオ)代表の徳丸ゆき子氏が子どもの貧困の実態と様々な支援の取り組みについて伝えた。

田川氏からは、生活保護世帯の子どもが義務教育を終えて高校や大学に進学する際の生活保護制度の課題について、具体的ケースを交えて様々な説明がされた。

たとえば、生活保護世帯の場合、高校で学ぶための費用は生業扶助として支給されるが、修学旅行やクラブ活動の費用は扶助されない。
その費用捻出のためにアルバイトをした場合に、月26,600円までなら収入認定されないが、これも事前に申告が必要で、申告しなければ不正受給とみなされてしまうこと。それ以上の収入があった場合にも、事前にケースワーカーと相談することで、修学旅行の積立金として収入認定されない方法があるなどが紹介された。
また、こういったアルバイト収入については、子ども達が生活保護制度のことを知らずに悪意なく申告しないことがあるか、ケースワーカーが丁寧に説明していない場合や、親が子どもに生活保護を受給していることを伝えていない場合などもあるなど、運用上の課題も示された。

徳丸氏は団体が進める「大阪子どもの貧困アクショングループ」の取り組みについて紹介。
シングルマザーの調査を通して、暴力の連鎖や当事者がSOSをなぜ出せないのかということなどの実態を報告した。

またここでも自己責任論では子どもを救うことはできず、社会全体としてのサポートの必要性が求められることが指摘された。

昼食を挟んだ午後では、慶應義塾大学経済学部教授の井手英策氏が登壇。
「誰もが受益者」という財政戦略と題して講演した。

井手氏は現在社会の不安の原因を「貯蓄できない」こととした。
これまでは社会保障として足りない分を個人の貯蓄が埋めていたが、世帯収入が減っている(この20年で約2割低下)ことで貯蓄できない世帯が増加。
そのことが将来不安に繋がっていると指摘した。

しかし、平均所得が低下しているにもかかわらず、内閣府調査では自身の所得階層を「中所得」と認識している割合は92.1%に及ぶ。
この実態は「自分は中の下で踏ん張っていると信じたい人が大勢いる」ためで、その状態で低所得者対策をすると、その施策からもれた低所得者がさらに低所得の層に対して不満を募らせることになる。階層分けする支援が分断社会を形成するとした。

そうした分断社会を終わらせる解決策として、「お金で人間を区別しないという哲学」を強調。
これまでの個人の貯蓄に頼る社会ではなく、相応の税を国民全員で負担をすることで、それを社会的な貯蓄として平等に分配することを提案した。
そうすることで結果的に①格差が縮小②経済成長力が強まる③財政が再建すると力説。
「頼り合える社会」をつくっていくべきだと述べた。

【所感】

この研修会の大前提として党派を超えたものであるはずであったが、講演者の一部に特定の党派の主張に偏った意見が見られた。(それについてはアンケートで指摘させてもらった。)
しかし、それはある意味些末な問題であって、貧困問題に長く関わってきた方々の実体験や具体例を通した報告は大変勉強になった。

生活保護は大変複雑な制度になってしまっており、知らなければ支援につながらない場合も少なくない。
困窮する市民を適切な支援につなげるためにも、知識のブラッシュアップが必要なことを強く感じた。

さらに個人的に今回の研修会での最大の収穫は井手英策教授の講演であった。
不勉強から教授のことをこの研修で初めて知ったが、現代社会を覆っている「不安」の原因が「貯蓄ができないこと」にあるとした分析は、わが意を得たものであった。

また全体を通して研修会全体を通して「自己責任論」が貧困問題の通奏低音である感を深くした。

貧困の解消は政治にとって最優先の課題であり、大変有意義であった今回の研修を、今後の活動にしっかり活かしてまいりたい。

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