スルガ銀行の不適切融資が大きな問題になっています。今年1月のシェアハウス運営会社に対する融資打ち切りが発端となり露呈したこの問題に対して、今月7日、第三者委員会が調査報告書を公表しました。報告書では融資関係資料の偽装など、同行を巡る組織的な問題が多数指摘されています。
その問題点の一つとして、スルガ銀行が債務者に対してローンの繰上返済を防止していたことが記されています。
住宅ローンを借りている方などはご存知だと思いますが、ローンの繰上返済とは元々の借入期間で支払う予定の利息を、借入期間を短縮することで利息の支払いを少なくすることです。それによって、支払総額も少なくできます。
しかしスルガ銀行では、繰上返済されると貸出残高が減る(=営業成績が下がる)ことと利息総額が少なくなる(=収入が減る)ことから、この繰上返済をしないことを融資先に幾重にも求めていたということです。
金融機関とは民間であっても極めて公的に近い役割を担うものです。これを一行の問題であると看過してしまうことはできませんが、しかしここで述べたいのは銀行の役割ではありません。
この繰上返済を防止する行為。じつは国が同じことをやっていることは、あまり知られていないかもしれません。国は地方自治体が借金を早く返すことを、事実上止めているという現実があるのです。
平成28年度現在、地方自治体の普通会計における地方債残高は144兆9,087億円(総務省 平成30年度版「地方財政の状況」の概要)と莫大な額に上ります。(ちなみに同28年度の普通国債残高は830兆5,733億円(財務省 最近20年間の各年度末の国債残高の推移)。)
そのうち立川市では、市債残高は平成29年度末で264億7,330万9,136円(一般会計・元金のみ)。市民(182,954人・平成29年度末)一人当たり145,000円程、一家4人家族だとすれば580,000円もの借り入れをしている計算になります。
少子高齢社会で社会保障費が年々増加することが我が国最大の課題です。どう財源を捻出するかとともに、次の世代にツケを残さないためにどうしたらいいか。これが政治命題の一つでもあります。ですから、そのためには借金を減らすことが重要です。ところが、先ほど述べたように、国はこれを妨げている事実があります。
財務省のサイトに「財政融資資金からの借入金を繰上償還することは可能ですか」というページがあります。少し言葉が難しいですが、簡単に言うと国からの借金を繰上返済できますか?ということについて書かれています。
そしてその答えが、次のとおりです。
繰上償還(前倒し返済)を行う場合、貸し手は、本来、繰上償還以後も受け取り続けられるはずであった利息収入を失うことになる一方で、借り手から繰上償還を受けた資金を元手に新たに貸付けを行って利息収入を得ることが可能です。結局、貸し手にとって、失った利息収入と、新たに得られる利息収入の差額が繰上償還に伴って生じる損失となります。
財政融資資金の貸付けは収支相償うよう運営されていることから、このような繰上償還に伴って生じる損失をそのまま受け入れることは出来ません。したがって、繰上償還に応じる場合には、繰上償還に伴って生じる損失に対応する補償金の支払いが前提となります。
つまり繰上返済されると受け取る予定の利息が受け取れなくなるから、返してもいいけど減る分を補償金として払ってね、ということです。
市債の借入先は財政融資資金だけではありません。様々なところを借入先として市債を発行しています。ですが、どこも概ねこの財政融資の繰上償還の考え方にならっているようです。
これは先のスルガ銀行の繰上返済防止と同じではないでしょうか?
住宅ローンでの繰上返済でも手数料を取ることはあります。しかし現在では、全額繰上返済でもWEB経由であれば手数料無料のところが多くなってきました。
ところが、市債という借金の返済にあたっては補償金が必要なことで、繰上返済のメリットがほぼなくなってしまうのが実情です。
今回の立川市議会決算特別委員会で平成29年度の審議を行うにあたり、繰上償還した場合と、繰上償還せずに償還期間で返済した場合の違いについて、財政課に事例を出してもらいました。
1億円を2029年3月20日返済期限で年率2%で借りている市債があります。これを2017年3月20日に全額を繰上返済した場合の試算です。
返済時には補償金として1千149万円が必要となり、あと12年間借り続ける場合と、繰上返済(繰上償還)した場合で支払総額は約150万円しか変わりません。
実際にはこの事例よりも利率が低いものも少なくないので、繰上償還した場合のメリットはもっと低いはずですし、29年度決算の剰余金が約53億円だということを考えれば、そのうち返済に10億円充てられたとしても、1,500万円程度のメリットです。これが多いか少ないかは判断によると思いますが、いずれにせよ、補償金を支払うことによって返済の効果は著しく低くなります。
これまで国は、財政力の低い自治体に限っては補償金なしでの返済を認めてきました。
しかし、それ以外の自治体では返済を認めない一方で、近年は基金という貯金の積み増しを問題視し始めています。
・税収増を背景に、東京都の自治体の基金増が顕著となっている。いずれにしても、基金積立残高21兆円というのは、新たな埋蔵金と言われかねない状況では ないか。必要なものはしっかりと支出し、必要のないものは効率化する。顕著に増加している自治体については、実態と背景を分析し、自治体が説明責任を果たすよう促すとともに、国・地方を通じた地方財政計画への反映等の改善方策を講じるべきではないか。(平成29年第7回経済財政諮問会議(2017年5月11日))
・地方交付税で財政移転を行っている中で、自治体の基金積立残高が21兆円にも達しているのは、地方では使い切れない財源が積み上がっているからではないか、そういった印象を受ける。基金が積み上がっていることについて、自治体がきちんと説明責任を果たすことが必要である。それをしなければ、地方税を納める企業、あるいは住民の理解は得られないのではないか。(平成29年第7回経済財政諮問会議(2017年5月11日))
負債(借金)があるなら、それを返済できるように資産(貯金)を持たなければバランスがとれません。
国が地方自治体の基金を問題とするなら、積極的に負債の返済を認めるべきではないでしょうか。
本年4月24日に行われた経済財政諮問会議でも、つぎのような発言がありました。
・地方公共団体の基金に関して、いまだにあまり納得していない。・・・平成28年度末時点での基金総額は、約22兆円であり・・・これが国に戻ると、プライマリーバランスの比率が2%変わるほど、大きな金額である。また、財政調整基金については景気変動に対応するものであるはずなのに、リーマン・ショック後の地方財政減収時にも増え続けているのはおかしい。今のような景気が良いときにこそ地方債の返済を進めるべきではないか。(平成30年第5回経済財政諮問会議(2018年4月24日))
「地方債の返済を進める」ために、国は今の補償金制度を改める必要があると考えます。