若者の自立支援へ住宅セーフティネット法改正を

「住生活基本法」という法律があります。

基本法とは、関連する法律のおおもととなる法律です。この基本法に書かれている理念や方針のもとに、関連する法律がつくられていきます。

平成18年に公布・施行された「住生活基本法」は、住宅を建てることに主眼が置かれたそれまでの「住宅建設計画法」に換わって、①良い住宅をつくって、次の世代に残しましょう。②住まいの環境を良くしましょう。③家の売買や賃貸を円滑にできるようにしましょう。④福祉として住宅を確保・整備しましょう。という方針を打ち出しました。なかでも、住宅政策に福祉の視点を入れたことが大きな特徴の一つです。

そしてこの福祉という基本理念から、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)」ができました。これはその法律の名称どおり、住宅を確保することに配慮しなければならない者、つまり自分の力では家をみつけることが困難な人には、行政が公的住宅あるいは民間住宅に入れるようにして、国民の生活を安定させなさい、というものです。

では、この住宅確保要配慮者とはどういう人たちを指すのか。住宅セーフティネット法では、第一条に「低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子どもを育成する家庭その他住宅の確保に特に配慮を要する者」と定義しています。これだけを見ると「確かにそのような方には配慮が必要だな」と思うかもしれませんが、これには次のような指摘があります。

この法律では、その対象者として、世帯の稼働能力がその属性ゆえに低いと見なされる「高齢」「障害」「母子」などのカテゴリー、住宅確保の必要の緊急性を根拠とする「被災者」、人口の少子化に対処するために住宅確保の優先性が与えられた「子育て世帯」など、具体的な類型が示されている。低所得者も住宅確保要配慮者に含まれるが、低所得である以外に特徴のない人々が、それ以外の特徴的な類型のカテゴリーの人々に優先して、数的に限度のある公営住宅等に入居できる可能性は高くない。

(「住宅のセーフティネットは機能しているか―住宅弱者に対する政策と課題―」萩原愛一 国会図書館刊行「レファレンス」No.710(2010年3月)より)

つまり、低所得に加えて、高齢であったり、障がいを持っていたり、母子家庭だったり、被災してしまった、という人の方が優先されるから、ただ低所得であるというだけでは少ない公営住宅に入れる可能性は、現実的にはほとんどありませんよ、ということ。その、ただ低所得であるという人、ここで指摘されている「低所得である以外に特徴のない」層とは、単身の若者世代です。

立川市の市営、東京都では都営という公営住宅。この公営住宅は、住宅セーフティネット法のなかに位置づけられています。その第5条2項には「公的賃貸住宅の管理者は、公的賃貸住宅の入居者の選考に当たり、住宅確保要配慮者の居住の安定に配慮するよう努めなければならない。」と定められていて、公営住宅の入居資格を定める各地の条例は、住宅セーフティネット法のこの条文との整合性がつくものとなっています。立川市では「立川市営住宅条例施行規則」のなかで同様に定められていて、単身の若者が入れるのは生活保護を受けている場合に限られます。

しかし、公営住宅は本来、生活力をつける間の一時的な住まいという位置づけです。現在は高齢者住宅という側面が強くなっていて、それはそれで高齢化社会のなかでは必要ですが、その割合が高くなりすぎることは本体の役割を失うことになりかねない。

なぜ若者世代が公営住宅に入れないことについて言及するかといえば、若者が経済的、精神的に自立していく過程において、住宅の支援は有効であると考えるからです。現在は、雇用情勢がまだまだ厳しいことから、親との同居を余儀なくされている若者も多い。その状況が長期化することが若者に結婚をあきらめさせ、少子化に至る大きな要因であると思います。

若者の自立支援という側面を、住宅政策のなかで位置づけていく必要がある。そのためには、現行の住宅セーフティネット法を改正する必要があると考えます。

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