(東京・武蔵野市)福祉の窓口一本化

2021(令和3)年5月5日付 公明新聞6面

福祉の窓口一本化

相談コーディネーターを配置

東京都武蔵野市は、市役所2階にある生活福祉課の一部に「福祉総合相談窓口」を今年度から開設し、「福祉相談コーディネーター」が高齢者や障がい者ら訪問者の相談内容や課題をあらかじめ整理して関係部署まで案内している。各担当課のたらい回しに遭うことや、適切な支援につながらないケースを防ぐことが狙いだ。市議会公明党(落合勝利幹事長)が実現に尽力。市民から「相談しやくすなった」と喜ばれている。

支援の全体像 把握しやくす

ひきこもりやダブルケアにも

武蔵野市の福祉総合相談窓口は、80代の親が50代のひきこもりの子どもを世話する「8050(ハチマルゴーマル)問題」や、介護と育児を同時に担う「ダブルケア」など複合的な諸課題を含む福祉に関わる全般的な相談に対応する。窓口の「福祉相談コーディネーター」が相談内容に応じて手助けする。時間は平日の午前8時30分から午後5時。電話や訪問による相談も受け付けている。

氏は、これまで福祉の相談に対し、部署を横断して密に連携を取りながら対応してきた。それでも福祉の制度が複雑なこともあり、ひきこもりの人や精神障がい者らが受けられる全ての支援にたどり着くまで、各担当課のたらい回しに遭うことなどが課題だった。

利用者「本当に助かる」

公明党議員、実体験踏まえ実現に尽力

市議会公明党の大野厚子議員は、その課題に直面した経験を持つ一人だった。議員になる前の2008年、夫の正美さんが若年性認知症を発症。その際、介護保険や障害者保険、障害年金などの手続きをしようと各担当課へ。ところが、同症は国指定の難病で事例が少なく、行政も対応した経験が少ない。各担当課は、同症に関する支援制度の全体像を把握しておらず、各担当課を次から次へと回られた経験をした。

「同じ思いをして困っている人を助けたい」。15年4月に初当選後、固い決意で大野議員は福祉サービスの向上に奔走する。その中で出会ったのが、精神障がい者の家族で構成される「第二金曜会」(高辻清長会長】のメンバー。「行政に相談したい内容が複雑で、どこに相談すればいいか分からず困っている」と打ち明けられ、課題解決に親身になって動き出した。

大野議員は、15年6月定例会で、高齢者や障がい者らへの相談窓口サービスを充実させる必要性を強調し「福祉の総合案内人を配置すべきだ」と提案。さらに、17年6月定例会でも重ねて訴え、粘り強く実現へと導いた。高辻会長らは「窓口が一つになり、福祉の相談がしやくすなった。本当に助かる」と語っている。

不登校生のオンライン学習 出席扱いで学ぶ機会広げよ

2020(令和2)年12月3日付 公明新聞3面

不登校の児童生徒が、オンラインで自宅学習できる取り組みについて、文部科学省は、学校の判断でオンライン学習でも出席扱いとするよう通知していえるが、実際に出席が認められたケースは少ない。子どもの学びの機会を広げる観点から、公明党は国会でも取り上げ、制度の活用を主張した。この問題に詳しい全国不登校新聞社の石井志昂(しこう)編集長のコメントも紹介する。

「GIGA構想」機に制度活用さらに

05年に通知発出もわずかにとどまる

文科省は2005年、不登校生がインターネットなどを活用して自宅学習をしたり、学校外で指導を受けたりした場合、一定の要件を満たせば校長の判断で出席扱いにする通知を発出。19年10月にも改めてオンライン学習を出席扱いと認めるよう通知している。

年間30日以上登校していない不登校の状態にある児童生徒は19年度、18万1272人に上る(10月発表、文科省調査)。7年連続で増えており、過去最多だ。

一方で、ネットを活用した自宅学習で出席扱いとなっている児童生徒数は、18年度286人、19年度608人と増えているものの、不登校の児童生徒の総数に比べれば、わずかにとどまる。

公明党の竹内議政務調査会長は11月2日の衆院予算委員会で、この間題を取り上げ、「学校のICT(情報通信技術)環境整備が不十分などの理由で、(オンライン学習でも出席扱いとなる制度の利用が)極めて低い状況にある」と指摘。子どもたちの学びを保障する「GIGA(ギガ)スクール構想」により、来年4月から全ての小中学生に1人1台の端末が整備されることを踏まえ、希望する不登校の子どもたちが同制度を活用できるよう促すべきだと訴えた。

導入進む自治体も

大分県教育委員会は今年6月から、外に出られない不登校の児童生徒が、アニメを活用したオンライン授業で学習できる取り組みを始めた。

県教委では、パソコンやタブレット端末で学べる民間のオンライン教材を導入した。この教材には、先生役のアニメキャラクターが登場し学習を進める。人聞が一切登場しないのが特徴だ。実際に人と対面で会話することが苦手な児童生徒でも負担なく勉強ができるよう配慮し、教材を選んだ。当初、30人程度の利用を想定したところ、40人以上が教材の活用を始めた。

児童生徒のサポートは、教員経験がある家庭学習支援員が担当する。学習状況を把握し、学校や保護者に共有する役割を担うほか、メールを通じて、教材の操作方法などの質問にも応じている。県教委の担当者は、「意欲的に学んでいる生徒が多い。今後、学習内容を充実させていきたい」と話す。

長野県松本市教委は今月から、不登校の小中学生を対象に、スマートフォンなどを使ってオンラインで教員やスクールカウンセラーとの授業や面談を行った場合、出席扱いにすることにした。

これまでは、学校の内外で学習できる教室を設けていたが、「自宅や自室から外に出ることが難しい児童生徒もいることから、安心して学べる環境を整えた」(担当者)。

熊本市教委は、新型コロナウイルスの感染拡大で一斉休校になったことを機に、オンライン会議システムを活用して授業を配信。不登校の児童生徒も授業に参加したことから、現在も希望する児童生徒に授業の配信を行っている。

(東京・立川市)全市立図書館に本の除菌機設置

2020(令和2)年9月13日付 公明新聞4面(東京・山梨版)

立川市は先ごろ、全市立図書館に書籍除菌機を設置した。公明党立川市議団(高口靖彦幹事長)はこのほど、市立中央図書館を訪れ、使用状況を確認した【写真】。

書籍除菌機は紫外線を当てることで除菌、消毒するほか、送風により、本のすき間にある、ほこりを除去する。また、機器内に消臭剤を循環させ、たばこやペットのにおいを取り除くこともできる。市議団が視察した中央図書館では2カ所に設置しており、担当者によると、利用者は新型コロナ禍の影響で除菌の意識が高まっているとし「稼働する頻度は高くなっている」という。

党市議団は今年5月、清水庄平市長宛てに提出した緊急要望書で、図書館を利用する市民のために書籍を除菌できる機器の導入を求めていた。

新型コロナと今後の社会 識者に聞く―慶應義塾大学教授 井手 英策 氏

2020(令和2)年8月21日付 公明新聞1面

ベーシック・サービス

”無償化”で不安を解消 教育、医療、介護、障がい者福祉など 暮らしを支える基盤強く

ーコロナ禍が突き付けた日本社会の問題は。

井手英策・慶應義塾大学教授 コロナ禍は、日本の社会が抱える問題を「可視化」してくれた。特に、セーフティーネットと呼ばれる暮らしを支えるための基盤が、あまりにも”もろい”ことがよく分かった。

例えば、日本には先進国では常識の低所得者層向けの住宅手当がない。休校中の子どもの育児で仕事を休んだ親や、自粛要請の協力した人に対する所得保障の仕組みも持っていない。そうした社会保障がないから、突然、失業者や収入減少といった危機に直面した人は慌ててしまう。

結局、不安の原因はお金がないためだとして、国民にパニックを抑えるには、現金を配る選択肢しか残されていなかった。この脆弱な社会をいかにつくり替えていくかという議論を始めるべきだ。

―どのように、つくり替えていくのか、その方向性は。

井手 今回の一律10万円給付は、所得制限を設けず中間層や富裕層も含めて全ての人に配ったから、国民に支持された。消費税の軽減税率を同様に全ての人に利益があるからだ。しかし、例えば、大学に通う子どもの学費や、大きなけがをした場合の医療費は、1回の10万円給付だけでは足りない。だから、誰もが必要とする、もしくは必要になる可能性がある教育、医療、介護、障がい者福祉といった「ベーシック・サービス」を税財源で無償提供することを提案してきた。

予算規模で比較すると、一律10万円給付は約13兆円、与党の尽力で始まった幼児教育・保育の無償化の今年度予算は約9000億円だ。13兆円は、幼保無償化を15年近く続けられるほど莫大な金額だ。

あるいは、消費税を5%減税した場合はどうか。総務省の家計調査によると、収入が最も低い20%の世帯の消費額は年間約160万円で、減税効果は8万円。収入が最も高い20%の世帯の消費額は同約470万円で、減税効果は約24万円となり、富裕層が得をする。
現金給付や減税のような「お金」で返す方法よりも、生存と生活を保障するサービスを無償化に近づけた方が、全ての人が将来不安から解消され、安心して暮らせる社会をつくれる。

「連帯」構築へ新たな発想

―ベーシック・サービスを無償化に近づけるために必要な考え方は。

井手 当初は、貧しい人に30万円給付する案だったが、一律10万円給付は国民に歓迎された。この事実に、貧しい人に対する思いやりより、自分の生存に必死になっている人間の姿が浮かぶ。結婚を諦め、子どもや持ち家、いろんなことを我慢し、歯を食いしばって生きている人が大勢いる。人間は、自分の生活が安全・安心にならない限り、他者を思いやることは難しい。重要なのは全ての人の生活防衛だ。

経済は低成長を続け、少子高齢化が進む中、これから長い停滞の時代に入っていく。コロナ禍はその一部に過ぎない。本当の危機はこれからやってくる。歴史を振り返れば、危機の時代では、人々は新しい連帯の仕組みを作り、支え合い、満たし合って生きてきた。これまでは、経済を成長させ、自分の力で稼ぎ、自己責任で生きていけたが、危機の時代は無理だ。社会全体が連帯する新たな仕組みが求められている。

一部の人、例えば貧しい人だけを助けようとすれば、中間層や富裕層は、これをねたむ。危機の時代には、大勢の人が困っている。心の底から「困っている人のために」と思うのであれば「皆のために」と言うべきだ。公明党は、右でも左でもない新たな発想で、連帯の社会づくりをリードしていくべきだ。

取材現場から~休日明け申請、なぜ負担増か

2020(令和2)年4月15日付 公明新聞7面

2020/04/15公明新聞7面

取材現場から

休日明け申請、なぜ負担増か

国指定難病である「黄色靱帯骨化症(おうしょくじんたいこっかしょう)」と診断された福岡市の男性(71)は、しびれが残る足をさすりながら、難病が発症した時の様子を語ってくれた。

昨年8月9日は金曜日だった。下半身がしびれる感覚に襲われた。すぐに病院を受診したが原因は不明。翌10日の土曜日には歩行困難な状態まで悪化し、緊急入院すると「黄色靱帯骨化症」だと診断された。

11日の日曜日には両足が完全に動かなくなったため、医師の判断で急きょ、「山の日」の振替休日である12日に手術した。

連休明け、男性の家族は市の窓口を訪れ、難病医療費の助成を申請した。だが、市の担当者から、「医療費の支給は法律で申請日からと決まっている」と言われ、手術費などが助成対象外に。月3万円で済むはずの自己負担額が、約27万円になったという。男性は、「申請したくても休日で市の窓口が閉まっていた。行政は患者の実情に配慮してほしい」と憤っていた。

今回のように、急な発病や症状の悪化により、診断後、申請する機会が無いまま手術を行う場合がある。市は、休日も申請可能な窓口を設置できないのか。一方、国が定めた難病法も、診断日ならともかく、申請日からしか助成を受けられない現状はどうか。

現在、男性の声を聞いた公明党の楠正信市議が下野六太参院議員と連携し、課題解決に取り組んでいる。難病法施行から今年で5年。全国に90万人いる国指定難病患者の実情に心を配り、力強く支えていく法整備を進めてほしい。(悠)

水の都・東京 復活を

2020(令和2)年3月27日付 公明新聞2面

水の都・東京 復活を

党都本部PTが意見交換

玉川上水を活用し水質改善

江戸城の外堀や日本橋川などの水質浄化に向け、公明党東京都本部の「水と緑の回廊・国際都市東京の実現プロジェクトチーム」(PT、座長=竹谷とし子参院議員)は26日、衆院第1議員会館で、玉川上水・分水網を生かした水循環都市東京連絡会(代表=山田正・中央大学教授)と意見を交わし、東京都などから取り組みを聞いた。公明党の太田昭宏全国議員団議長はじめ竹谷座長、岡本三成衆院議員らが出席した。

席上、山田代表らは、腐臭を放つアオコの増殖などで、外堀の水質が悪化している現状を指摘。水辺の再生には、江戸時代に開削された「玉川上水」を活用し、多摩川の河川水を導水する根本的な水質の改善が必要だと述べた。

太田議長は、水の都・東京の復活に向け、公明党が長年取り組んできたとし、「前進していけるよう、一緒に取り組む」と語った。

住まいは社会保障の基盤

全世代型社会保障について公明党が現在、「住まい」を社会保障の柱と位置付けて検討を進めている、という記事が公明新聞に掲載されました。

これは私が初当選以来、市議会の場でずっと主張してきたことであり、最終提言の取りまとめに大いに期待しています。


2020(令和2)年3月23日付 公明新聞2面

住まいは社会保障の基盤

公明、政府施策への反映めざす

全世代型社会保障について政府が夏にも取りまとめる最終報告に向け、公明党は現在、最終提言を行うための準備を進めている。この中で公明党は「住まい」を重要な柱の一つに位置付け、施策の充実をめざす方針だ。昨年10月に設置された党住まいと暮らし問題検討委員会(委員長=山本香苗参院議員)の国重徹事務局長(衆院議員)に、住まいを巡る施策の現状と課題、党の取り組みを聞いた。

福祉との連携が重要

――住まいを社会保障の柱に位置付ける理由は。

公明党はこれまで、生活支援プロジェクトチームを中心に困窮者支援を推進してきたが、その取り組みの中で、現場の課題として浮き彫りとなったのが住まいの問題だ。住む所があって初めて社会保障などの支援制度につながり、就労や世帯形成も可能となる。まさに住まいは「社会保障の基盤」だ。

一方、空き家が増えている半面、単身高齢者や低所得者、障がい者、ひとり親家庭、刑務所出所者など、家を借りたくても借りられない人がおり、今後さらに増加が見込まれている。また、持ち家があっても、災害などで家を失った単身高齢者が新たな住まいを確保しにくいという場合もある。つまり、住まいの問題は誰もが直面する可能性があるということだ。

公明党は、こうした住まいの確保が困難な方々に低廉な家賃で民間の空き家・空き部屋を提供する住宅セーフティネット制度を推進してきた。これを、より広く行き渡らせるためには、地方自治体における住宅と福祉の連携が極めて重要であり、地方議員の皆さんと共に取り組みたいと考えている。

――検討委設置から現在までの取り組みは。

検討委では、居住支援の関係団体などにヒアリングを行うとともに、住まいの確保が困難な方々を支援している先進事例を視察してきた。今国会でも、1月の参院予算委員会で山本委員長が「住まいを全世代型社会保障の基盤として位置付けるべきだ」と提案し、安倍晋三首相から「公明党が指摘した点について、よく伺いならが議論を進めたい」との答弁を引き出すなど、党の主張が政府の施策に反映されるよう取り組んできたところだ。

高齢者らの住宅確保へ 貸す側の不安取り除け

――今後の展開は。

党の最終提言取りまとめに向けて議論を進めていく。高齢者らが家を借りにくい背景として、貸す側がや賃貸滞納や孤独死などを恐れていることがある。これらの不安解消には、入居時だけでなく、入居後も見守りなどの支援を行う必要がある。身寄りのない高齢者らが亡くなった後の遺留品処分のあり方や、連帯保証人の確保も検討が急務だ。

外国人や刑務所出所者の住まいを巡る実情も調査し、何ができるか検討したい。深刻化する社会的孤立の防止も、住まいの安心という観点で必要になる。

人生100年時代を見据えて、住まいを暮らしの安心をセットで確保できるよう党を挙げて取り組んでいきたい。

誰も置き去りにしない社会保障

2020(令和2)年2月29日(土)付 公明新聞4面

「誰も置き去りにしない」は、国連の持続可能な開発目標(SDGs(エスディージーズ))の基本理念として知られ、国際社会に定着しつつある規範の一つだ。公明党は、この理念を外交のみならず、内政の基軸に据えようと取り組んでいる。社会保障政策においてはどうあるべきか、現在進められている全世代型社会保障への評価も含め、慶應義塾大学経済学部の井手英策教授に見解を聞いた。

[背景]手取り収入97年で頭打ち 従来の弱者救済で良いのか

―「誰も置き去りにしない」とは、日本の社会保障政策でどんな意味を持つか。

井手 今、社会を見渡すと、生活に不安を抱えている人が少なくない。国際社会調査プログラムによると、「5年後は暮らしが良くなる」という問に賛成した日本人の割合は、調査対象17カ国の中で最低だった。また、内閣府の調査によると、悩みや不安を抱える人の割合が6割を超えている。厳しい状況だ。

経済が右肩上がりだった時代は、運悪く貧しい環境に置かれた一部の人たちを「弱者」とみなし、救いの手を差し伸べれば良かった。しかし今、困っているのは「特定の誰か」ではなく「みんな」だ。大勢の人が将来不安におびえる社会にあって、従来通りの弱者救済で良いのか、疑問だ。

特に、中間層(年収300万~800万円)からこぼれ落ちまいと必死で踏ん張る人たちは、なけなしの収入から払った税が弱者救済だけに用いられることを受け入れられるのか。かえって、彼らへの反発を募らせ、自己責任が叫ばれ、社会の亀裂を生むのではないか。
「誰も置き去りにしない」との理念は、「全民衆の最大幸福」という意味で日本の社会保障の核となる。

―将来不安の背景にあるものは。

井手 収入が減り、貯蓄もできなくなっている。加えて、人生100年時代と言われる長寿化は、それ自体は喜ばしくとも、貧困とセットになって老後の不安を増大させている。

具体的なデータを示したい。世帯の可処分所得(税引き後の手取り収入)は1997年で頭打ちとなり、今もそれを超えられない。また、税引き前の所得である「世帯収入」の分布状況を見ても、2018年で300万円未満が全体の34%、400万円未満が47%を占めた【グラフ参照】。

この間、共稼ぎ世帯数が専業主婦世帯数を明確に上回わった。つまり、稼ぎ手が1人から2人に増えたにもかかわらず、世帯収入が落ちたのだ。
こうした中、日銀が事務局を務める金融広報中央委員会の17年調査では、単身世帯の5割、2人以上世帯の3割が「貯蓄なし」と答えている。

―家計の金融資産の3分の2を60歳以上の世帯が保有する中、貯蓄ゼロは深刻だ。

井手 だがそれば「ありふれた危機」だ。要するに平成の約30年間で、私たち日本人は急速に貧しくなった。世界における日本の相対的な立場も、1人当たりGDP(国内総生産)が世界4位(1989年)から26位(2018年)へ転落している。

[課題]”備えは自己責任”に限界 現役世代の支援 先進国で最低水準

―低成長下での社会保障はどうあるべきか。

井手 先程の世帯収入の分布状況は、日本社会で多数派を占める中間層が低所得層化しつつある実態を示している。中間層は、現役世代を言い換えてもいい。

しかし日本の社会保障は、現役世代への支援が貧弱なのだ。高齢者向けと現役世代向けの社会保障給付の各割合(対GDP比)を見れば、一目瞭然だ。経済協力開発機構(OECD)諸国の中で、日本は高齢者向けに偏り過ぎており、現役世代向けは最低レベルだ【グラフ参照】。

―現役世代向けの給付を抑えられたからこそ、日本は一貫して”小さな政府”でいることができた。

井手 そうだ。そして、その政府を支えてきたのが自己責任のイデオロギーだ。つまり、人様に頼らず、勤労・倹約し、自助努力で生き延びることを美徳とする思想で、江戸時代から私たちの社会に深く根を張り、今も当たり前の前提となっている。

しかし、この前提が今後も通用するかは疑わしい。自己責任社会においては、政府のご厄介になることは恥ずかしいことだ。だから生活が苦しくても社会保障に頼ればいいという発想は生まれにくい。自己責任の呪縛が社会のあちこちで人を苦しめている。

―具体的には。

井手 例えば、生活保護の捕捉率(生活保護を利用する資格のある人のうち利用している人の割合)は、日本は15%程度だが、フランスは約9割、スウェーデンは約8割となっている。先進国では「生活保護は当然の権利」とみなされているが、日本では「生活保護は恥」と考える人が少なくない。

また、日本国内の自殺者数は1998年以降、14年連続で3万人を超えた。多かったのは40~60代の中高年男性だった。不況下で心を病んだり、経済的に追い込まれたというのが理由だ。

自己責任社会は行き詰まっている。現役世代が安心して暮らせるよう支援を手厚くすべきだ。この点、政府が全世代型社会保障を掲げ、教育無償化に乗り出したことは評価できるし、正しい方向だ。

[提案]医療や介護など無償化し 貯蓄ゼロでも不安ゼロに

―新しい福祉社会像は。

井手 僕が提案したいのは”貯蓄ゼロでも不安ゼロの社会”だ。具体的には、①ベーシック・サービス②ディーセント・ミニマム(品位ある保障)―の二つを政策の柱とし、人間の「生存」と「生活」を徹底的に保障する構想だ。

ベーシック・サービスは、医療や介護、育児、教育、障がい者福祉といった「サービス」を必要とする全ての個人に無償で提供する。所得制限は設けないため、弱者にとどまらず、中高所得層まで幅広く受益者にできる。何より、低所得者層が、気がねなく堂々とサービスを利用できる。

似た手法として、全ての個人に一定額の現金を給付するベーシック・インカムがあるが、ベーシック・サービスの方が、はるかに限られた財源で済む。なぜなら、保育所がタダだからといって高齢者は利用しないし、自由に歩行できる人は車いすを欲しがらないように、必要(ニーズ)があってのサービスだからだ。全員の命をお金で保障すると膨大な財源がいる。

―ディーセント・ミニマムとは。

井手 ベーシック・サービスにより、生活保護のうち「医療扶助」「教育扶助」「介護扶助」はいらなくなる。屈辱の領域を最小化し、食費や光熱費にあてる「生活扶助」、なぜか日本にない住宅手当を整え、品位ある生命の保障を行う。

―財源は。

井手 要するに、自己責任の下、貯蓄で不安に備えるか、税を通じて社会全体で備えるかだ。ベーシック・サービスの財源を消費税だけで賄うには16%程度まで引き上げる必要がある。さらに財政健全化までめざすなら、プラス3%。実際は、所得税の累進度を高めたり、相続税の引き上げなど、全体として税負担の公平性を図っていくことで、消費税率の引き上げ幅を抑えることもできる。

今の社会の最大の課題は、競争の輪の中に加われないままに人生が決まる人たちがいることだ。”貯蓄ゼロでも不安ゼロ”の社会が実現できれば、スタートラインがそろい、競争を通じて所得格差が生まれても許容できる。そういう社会を子どもたちに残したい。

 

(岡山・総社市)ひきこもり 顔の見える支援

2020(令和2)年2月7日(金) 公明新聞7面

全国で115万人と推計される「ひきこもり」。支援の手が届きにくいことから”地域福祉の最後の課題”ともいわれる。その課題と真正面から向き合い、これまで30人以上のひきこもり当事者の社会参加を支援してきた岡山県総社市の取り組みを紹介するとともに、市の対策をサポートしてきた識者に話を聞いた。

地域で支えて、社会参加33人

総社市役所から徒歩5分ほどにある常設型の居場所「ほっとタッチ」。ひきこもり状態にある人が一歩外に踏み出すための受け皿として、民家を借り上げたものだ。利用時間は午後3時から5時で、いつでも、誰が来てもいい。

「よう来たねぇ!」。この日、3時になると、すぐに2人の男性が入ってきた。ひきこもりサポーターの山本繁さん(76)は、ホットコーヒーを差し出しながら、「最近どうしよった?」と話し掛けた。

山本さんは月2回ほど当番に来ている。最初は何も話さずゲームばかりしていた人も、「こっちに来て話そうや~」と声を掛けるうちに会話の”キャチボール”ができるようになった。個人的な相談をしてくる人や、就労に踏み出した人もいる。

 

サポーター常駐

ほっとタッチには、平均して1日4人程度の利用者が訪れる。サポーターは当番制で2人常駐し、お好み焼きパーティーなどのイベントも開催する。

サポーターは市社会福祉協議会(以下、社協)が実施する年5回の養成講座を受講すれば登録でき、現在80人近くいる。月1回の定例ミーティングでは、ほっとタッチ利用者の情報を共有し、課題解決へ知恵を出し合う。

現在、国の事業として都道府県や政令市には「ひきこもり地域支援センター」が設置されているが、対象者が多過ぎるため、きめ細かな支援は難しい。この点、総社市は身近な地域の人たちがサポーターとなり、支えていく”顔の見える支援”が特長だ。

 

少なくとも207人

同市がひきこもり支援を始めたきっかけは、2014年に立ち上げた生活困窮支援センターに次々と寄せられる相談だった。「働き盛りの息子がひきこもってお金に困ってるといった相談が多かった」(市福祉課)。200件のうち、40件余りはひきこもりに関する内容だった。

社協は15年8月、学識者や市幹部職員、NPOなどで構成する「ひきこもり支援等検討委員会」を設置し、「ひきこもりとは何か」から議論を重ねた。16年1月からは、地元の事情に精通し、市に700人以上いる民生委員や福祉委員が各地区ごとに集まり、匿名で情報を出し合う方式で実態調査を実施。その結果、市内に少なくとも207人のひきこもりの人がいることが分かった。

 

相談6401件

17年4月には、社協への委託事業として市独自のひきこもり支援センター「ワンタッチ」を開設した。当時、一般市レベルでのセンター設置は全国的に珍しかった。専門職員を2人配置し、相談支援のほか、ボランティアやハローワークへの同行支援、サポーターの養成、居場所や家族会の運営など幅広い活動を行っている。

同センターへの相談件数は、昨年12月末時点で6401件に上る。内訳は、▽訪問1372件▽来所2500件▽電話2117件▽メール412件だった。センターの支援を受けて、ボランティア体験や就労、進学といった形で、これまで33人が社会参加している。

日下部祐子センター長は、「ひきこもりは個人ではなく社会全体の問題。これまで精神保健や医療の面での支援が主だったが、身近な地域の人たちが手を差し伸べて支えることが重要だ。ひきこもりの方々が、社会へ踏み出そうと思える地域づくりを今後も進めていきたい」と語っている。

 

(千葉・松戸市)保護者の通勤時 幼稚園児を駅前預かり

2018(平成30)年8月29日(水) 公明新聞7面

「子育てしやすいまちづくり」を最重要施設の一つに掲げる千葉県松戸市は、3年連続(4月1日時点)で待機児童ゼロを達成するなど、多彩な取り組みが功を奏している。働きながら子育てする市民を応援するため、今年4月には幼稚園児を受け入れる「新松田駅前送迎保育ステーション」をオープンさせ、保護者から喜ばれている。市議会公明党(城所正美幹事長)の9人と党松戸総支部の篠田哲弥副青年部長(いずれも市議選予定候補)が同ステーションを視察した。

送迎保育ステーション好評

江戸川を挟んで東京都と隣接する松戸市は、都心まで20キロ圏に位置し、30分程度で電車通勤できる。共働き世帯が多く、公明党の推進もあり、市は保育の受け皿の確保ときめ細かい支援に力を入れてきた。

「新松田駅前送迎保育ステーション」の保育サービスは、月~土曜日まで、幼稚園に通っている時間を除く7~19時まで実施。朝は保護者が通勤前に園児を同ステーションに送り届けてから幼稚園バスが迎えに来るまで、夕方は幼稚園バスが園児を同ステーションに送り届け、保護者が迎えに来るまでの時間帯となる。

受け入れの対象は、今のところ市内にある大勝院幼稚園と、みやおか幼稚園に通園する市内在住の3歳児から就学前までの園児。保護者の就労時間が月56時間以上で、保育が必要なことを条件としている。料金は毎月1000円。保育士やチャイルドマインダー(保育サービスの専門家)が2人以上常駐し、子どもたちを預かる。

同ステーションによれば、現在は大勝院幼稚園に通園する園児3人が利用。保護者の一人は「ベビーシッターなどをやりくりして、幼稚園に通わせていたため、大変に助かった」と喜んでいた。

また、同ステーションができた地域は、就学前の子どもを持つ保護者の共働き率が50%に上り、保育ニーズが高いのが特徴。市の担当課は「幼稚園の送迎保育が始まったことを周知するとともに、送迎できる幼稚園を拡充し、利便性を高めていきたい」と話している。

多彩な施策で3年連続待機児童ゼロ達成も

松戸市は昨年6月、市内の全23駅に駅ナカ(駅構内施設)もしくは駅チカ(駅から徒歩5分圏内)小規模保育施設の整備を完了し県内最多の60ヶ所を超えるまでに拡充。保護者の相談に応じて、希望する保育所とのマッチングを行う「利用支援コンシェルジュ」や、保育園児向けの「送迎保育ステーション」などのサービスを展開してきた。各種事業を推進する中で、3年連続待機児童ゼロを達成。昨年12月には、日本経済新聞社と日経DUALの共同調査による「共働き子育てしやすい街ランキング2017」の全国編(東京を除く)で1位に輝いた。

待機児童の解消に向けては市議会公明党が2014年から代表質問などで小規模保育所の整備をはじめ多様な生活スタイルに対応した保育サービスの必要性を訴えていた。また、15年12月の一般質問で「親戚などの援助がない保護者にとって送迎支援は重要だ」と訴え、幼稚園に通う園児が利用できる送迎保育ステーションの整備を求めていた。

城所幹事長は「今後も子育て支援の充実にきめ細かく取り組んでいく」と語っていた。

公明新聞 2018/08/29