LINEを利用したいじめ・自殺相談事業(2018/01/23)

【日時】 平成30年1月23日(火)10:00~12:00
【訪問先】 長野県庁(長野県長野市大字南長野字幅下692-2)
【視察者】 公明党立川市議団(高口靖彦、山本美智代、門倉正子、瀬順弘、大沢純一)
【目的】 「LINEを利用したいじめ・自殺相談」事業について
【対応】 長野県教育委員会事務局心の支援課・企画幹謙課長補佐謙人権支援係長 竹内正樹 氏

【報告】
平成22年からの5年間で子どもの自殺率が全国一となってしまった長野県であったが、その対策にあたりLINEなどのSNS媒体を利用するということについては、庁内でも当初はまったく想定していなかったそうである。そこへLINE株式会社からの提案があったことで、今回視察した「LINEを利用したいじめ・自殺相談事業」を施行することになった。これにはLINE株式会社としても、いわゆる「LINEいじめ」といった、子ども達がLINEを利用することに対する負のイメージを払拭したいという思惑があったという。LINE株式会社としては、全国いくつかの自治体にこの事業提案を行ったが、そのなかで平成29年2月の長野県議会でのSNSを使った相談事業についての一般質問をLINE株式会社が見たこと、さらにLINE株式会社の出澤剛代表取締役社長CEOが長野県出身であり、阿部守一長野県知事がSNSに関心が高かったことで平成29年8月21日に事業の連携協定が締結された。

今回の事業は平成29年9月10日から23日までの2週間、「ひとりで悩まないで@長野」として試行。相談時間は17時から21時とした。県内全域の中学生、高校生12万人を対象者とし、相談体制は大阪にある「関西カウンセリングセンター」に委託した。民間のカスタマーサービス用のシステムを援用し、相談員10名・10回線(通常のカスタマーサービスでは、6回線ほどを一人で担当するそうだが、今回は1名1回線)で対応した。

事業の周知にあたっては、対象者である県内中高生約12万人にQRコードを記載したカードを配布したが、それ以外の媒体で周知は行わなかった。それにもかかわらず、登録者数が累計3,817人にのぼったことについては「想定外に多かった」。さらに相談については時間内のアクセス数1,579件で、そのうち対応できたのが547件であり、これまで行ってきた電話(SOS24時間ダイヤル)による子どもからの年間相談数259件(平成28年度実績)の倍以上となった。
尚、アクセス件数については「延べ人数」としているが、同じ人が1日に何度アクセスしてもその日は1回としてカウントしている。また、機能として相談時間外のアクセスもカウントでき、その人数は1,054件となった。その上で延べ人数ではなく実数としてのアクセス人数も掌握でき、その数は1,431人で対象者12万人の1%、2クラスに1人くらいの割合で利用されたとのことであった。

電話相談とLINE相談では相談内容に大きな違いが見られた。
これまでの電話相談では「交友関係・性格の悩み 36.3%」「いじめ 28.2%」などが内容の中心であった(平成28年度実績)。ところがLINE相談では「交友関係・性格の悩み 26.0%」を越えて一番多かったのは「その他」で、学業や恋愛などについての相談が47.8%と半数近くにのぼった。この結果について、LINEを使った相談では、思いつめる前の日常的な悩みを相談する傾向が見て取れる。LINEが身近なツールであり、その結果、気軽に相談ができたことが大きいと推測され、『「ひとりで悩む」子ども達に潜んでいた『相談したい気持ち』を掘り起こ』す効果があったと分析した。

今回の事業では相談(対応)時間を17時から21時までとした。これは全国の多くの学校や家庭で児童・生徒によるスマートフォン長時間利用が憂慮されており、21時以降も相談を受け付けることでスマートフォン利用を推奨するようなことになってもいけない、というのが理由とのことであった。一方でアクセス全体の2割ほどは深夜0時をまわった時間にあったそうである。
また、4千人近くの登録者数に対して、相談者は何人必要であったかを伺った。開始当初は5人で、その後は常時3人で対応したそうである。

今回は長野県としての事業であったが、担当者からは主に経費の面からある程度の広域行政でやるのが現実的であろう、との見解も示された。ちなみに長野県では平成30年度にも同事業を予定している。担当者によると60日間で1,000万円の予算計上になるということであった。

相談事業としてSNSを使うことの難しさも伺った。

LINEやtwitterなどのSNSは、おもに短文で投稿が行われる。それが生徒の文章力を低下させていると推定され、文章で思いをうまく伝えられない(相談を受ける側が思いを汲み取るのが難しい)ことが少なくないという。そのため、相談を受ける側としては声での会話以上に相談者の声(文章)を聞く必要があり、一人にかかる時間も長くなる。実際にこれまでの電話相談では一人にかかる時間の平均は20~30分ほどであったが、LINEでの相談には平均50分を要している。
そういった文字を通しての相談スキルの向上が、今後の大きな課題であることが示された。
また、SNSの匿名性から、緊急性の高い事案が発生したときの学校との連携も課題にあがった。

 

 

【所感】
一般論として緊急性の高低から判断したときに、いじめや交友関係といった悩みは、不登校やひいては自殺を考えることに繋がってしまうと考えるが、もとより個人の悩みを他人が重い、軽いと判断する資格はない。実際に長野県では、相談内容の集計としても「その他」に分類されている学業や成績の悩みから自殺に至ってしまった、という例がこれまでに何件も見られたという。

そうした、これまでにSOSを発信することができなかった人たちが、あらたなツールによって相談できることが明らかになったというこの事業の成果は大きい。とくに自殺対策には「誰かに相談する」ということが最も大切である。「誰も自殺に追い込まれることのない社会」をつくるための計画策定が基礎自治体に義務付けられたが、SNSを使った自殺対策は、他の世代に比べて減少が見られない若い世代に対して、その対策の中心に位置づけられる重要な施策と考える。

視察では基礎自治体では財政的な負担が大きいことから、広域での実施が現実的だとされた。財源としてはそうした取り組みになると考えるが、市民に一番近い自治体が事業の有効性を認識できるかどうかが、事業の前提として重要になるであろう。この事業については今後、立川市から自殺をなくすためにも大いに見識を深めたい。

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2018年1月31日