第15回 全国若者・ひきこもり協同実践交流会inとちぎ(2020/02/15-16)

【日時】 令和2年2月15日(土)~16日(日)
【会場】 作新学院大学(栃木県宇都宮市竹下町908)

【報告】

今回で15回目となる「全国若者・ひきこもり協同実践交流会」が作新学院大学を会場にして開催され、今回初めて参加した。

一般社団法人若者協同実践全国フォーラムが主催する研修会であるが、提起された課題はいじめ・不登校の問題から「8050問題」までと対象となる年代も幅広く、多岐にわたる2日間の研修となった。

1日目の前半は全体シンポジウムとして行われた。

最初に挨拶に立った福田・栃木県知事からは、知事本人が親族にひきこもり当事者がいること、さらに県内市民から知事に対して「8050問題」解決に向けた強い期待の声があることが言及された。そうした状況の下、栃木県では県内のひきこもりの状況を把握するため調査を行っていることが紹介された。

続く佐藤・宇都宮市長は挨拶で、現代の子どもたちが生きづらさを抱えているという認識を示し、若者を支援する対象ではなく、共に社会をつくっていく対象ととらえ、施策を展開していることが紹介された。

次に登壇した作新学院大学の渡辺学長は、栃木県内でひきこもりとされる市民がおよそ17,000人いることに言及され、そうした課題を解決するためには身近な支援のネットワークを行政だけでなく教育や福祉、医療機関さらにはNPOなどと協力しながら、身近なところで困っている人をサポートできる「開かれた体制」をつくっていくことが重要だとの認識を示した。

また、人間は一人では生きられるわけではなく、多くの繋がりをもって生存しているとして教育者・牧口常三郎氏の「平凡な一人の乳児も、その命は生まれたときから世界に繋がっているんだ」という言葉を紹介し、「繋がり」の重要性を指摘した。さらにネットワークの構築とともに、一人ひとりの意識を代えていくことが大切であるとして多様な人間が認め合い、寛容で利他的な精神をもっていくということが極めて重要だと述べられた。

その後、主催である一般社団法人若者協同実践全国フォーラム(JYCフォーラム)の共同代表である吉村信宏氏が「権利としての若者協同実践を目指して」と題して基調講演を行った。

講演で吉村共同代表は、現在の「生きづらさ」がなぜ引き起こされているのかについて言及。地域や社会に何が矛盾や間違いがあるはずだとして、今が時代の転換期であると初めに問題提起をした。

そのうえで、近代日本の歴史認識として明治維新以後の150年は工業化と都市化により「便利」「効率」を優先した画一化が求められた時代だと指摘。その結果は、豊かさを享受できるのは一握りの人だけとなり、自分だけが良ければという思いが加速してしまったのが今の日本ではないかとの認識を示した。

また、経済が大きくなることに最も貢献してきたのが競争の原理であり、それが発展の原動力となってきたのは確かであることを述べたうえで、経済が停滞してしまった現在では、その競争が対立を生み出し分断をつくっていると主張。そこから孤立という「競争の負の側面」が生み出されていることが現代であり、その源を見つめ直していくことが「協同実践」であると結論付けた。

その後に行われたパネル・ディスカッションでは、3名のパネリストからスウェーデンにおける若者による社会参画の取り組みが紹介された他、日本において若者が生きづらさを抱えている状況について、社会保障を軸に人権について議論が交わされた。

そこでは、これまで若者の生活保障は企業と家族にゆだねられてきたが、経済の停滞によって企業と家庭の包摂力が低下したと指摘。その結果、若者に対する保障が弱まっているとした。

さらに、これまで機能していた社会保障制度も機能不全が目立つとの主張もあった。その多くは予算削減による財源不足が原因だとしたうえで、その結果、人員が不足している現状のもと「断らない支援」を掲げながら断らざるを得ない実態があるとの課題も提起した。

そのように若者をめぐる社会福祉が「頼りない」なかでも、2000年代から若者支援政策(2003年「若者自立・挑戦プラン」)が行われてきたことは一定の評価をするが、その支援でさえも自立への意欲のある若者とそうでない若者との間に分断線を引いてきたとの主張もあった。また、最近は子ども若者育成支援推進法で総合的な相談ができる場所が増えてきたとは言えるが、現実として相談はできるが、それで安定した生活基盤が整うという状況ではなく、「生きていく条件整備」ができていないとの指摘もあり、そのもとで「相談しても無理」という声が当事者からあることを訴えた。

とくに若者支援といったときに、すなわちそれが「就学」し「就労」することでの経済的自立を目標としていることに関して、就学、就職することで生きることが安定するわけではない現実があり、新しい生き方を模索する必要性を示した。

全体会の後は一日目の分科会として「8050問題」について学んだ。

ひきこもりの問題を中心に、JYCフォーラム共同代表である立命館大学の山本耕平教授の他、佐野市役所に保健師として勤める津布久久枝氏や佐野市ひきこもりサポーターである太田八重子氏、同サポーターの横塚京子氏が登壇し、ひきこもり支援の取り組みなどについて報告した。

そのなかでは、支援の形として、今後の支援方法を担当者から伝える「提案型支援」が現場では多いと思われるが、それでは当事者との関係を悪化させてしまうことも少なくないことが報告され、当事者と支援の在り方については「一緒に」考えていくことが望ましいとされた。
また、佐野市の市民ボランティアである「ひきこもりサポーター」の取り組みが紹介された。その活動に対する参加者との質疑のなかで、ひきこもりの支援にあたっては、当人とその親に意識のギャップが発生し、とくに親が焦ってしまうことがあるとの指摘がされた。それに対して、支援者も当然結果(=就職)に繋げたいと焦ってしまうが、最も重要な点は「ゆるやかな変化を受け止める」ということであるとの見解が示された。
また、滋賀県高島市で若者の居場所づくりとして、ひきこもり当事者と高齢者が一緒に生活をしながら、パン作りを行い、スポーツイベントなどで販売しているという取り組みなども紹介された。

二日目は「自治体と民間団体の協同実践 共に“つくる”若者支援とは?」をテーマにした分科会に参加した。

ここでは栃木県子ども・若者ひきこもり総合相談センター「ポラリス☆とちぎ」の活動が紹介された。

平成26年10月に宇都宮市内に開所した県施設であるが、この事業はそれまであった「子ども・若者相談総合センター」(所管:県青少年男女参画課)と「ひきこもり地域支援センター」(所管:県障害福祉課)を統合したものである。ポラリス☆とちぎの副センター長である隅節子氏からは、このような部署を横断的に行っているのは全国でも少ないことが伝えられた。

今年で7年目を迎える同施設であるが、活動実績として平成30年度は相談件数が年間5221件であったとの報告がされた。これは過去最高であるという。その相談内容はひきこもりや不登校が多くを占めるが、昨年度としては精神疾患での相談が多くなっているのが特徴であることも示された。また、同センターでは来所の相談が難しい家族には出張での相談にも応じていという。先述のひきこもりサポーター事業は、このポラリス☆とちぎでも行われており、そうした出張相談の際には同席して今後の「身近な相談相手」になることを目指している。

しかし、実際には同席はなかなか難しいことも担当者から言及された。その理由は、小さい行政では匿名性の確保が難しいことが挙げられた。相談者としては、周囲に家庭の事情を知られたくないが、相談を受け止めるサポーターに地縁があると相談しにくいということが、その難しさにあるという。これについては、国(厚生労働省)から「地域で身近に相談できるところをつくる」ことを支援として提示されているが、実際の現場では簡単ではないとの感想が述べられた。

そうした「事情を周囲に知られたくない」という思いから、当事者家族もひきこもりを地域の人に相談することは少ない。その結果、行政が自治会にひきこもりの実態を尋ねても「うちにはひきこもりはいない」という回答がされる。しかし実際にはいるというケースは、栃木県内だけでなく全国でおこっているとの見解も示され、実態把握の難しさを認識した。

その後、NPO法人茨城居場所研究会を主宰し、茨城県と福島県でスクールソーシャルワーカー(SSW)としても活動する朝日華子氏から、子どもたちの「居場所づくり」の重要性について報告があった。

NPO法人茨城居場所研究所は、不登校を課題として活動している。

不登校に至る理由は、学校が楽しくないことや友達がいない等があるが、その反面で様々な理由から「家に帰りたくない」という子どももいる。高校生くらいになればアルバイトができることで、そうした時間があることが不登校に至らないためのエネルギーになっている場合もあるが、一方でそのような時間を持てない子どもも当然いて、そのようなときに、家庭と学校以外での居場所があることが重要なのだという。

報告では、そのような認識のなかで実施されている、学校での「居場所カフェ」という取り組みが紹介された。ここには在校生や先生のほか、退学した生徒も来ることができ、つながりを続けるための場所として提供しているということでる。そのような場を設けることで子どもたちから様々な話を聞くことができ、じつは日常的にご飯があまり食べられていないなどに気づくこともあるということであった。

【所感】

今回参加した交流会の講演や報告では、若者の生きづらさやひきこもりからの脱出には、就労に至る前の中間的な居場所が必要だというのが、共通する認識であった。

高度経済成長時代のような、今日よりも明日は良くなるという思いを持ちづらい現代にあって、働くことについて閉塞感を抱えているのが実情ではないだろうか。就労することも勤続することも困難を伴うなかで、ひきこもりから直ちに仕事に気持ちを向けることは至難である。

一方では、ひきこもり、あるいは不登校などについて、行政としての対応は就労や就学を目標として事業を組み立てる。しかしそれが当事者を追い詰めることになってしまうこともある。そうではなく、まずは当事者の話を聞きながら「ゆるやかな変化を受け止める」ということが最も重要だという指摘は、大いに参考になった。

「就学、就職することで生きることが安定するわけではない現実がある」という発言をきいたときには胸が痛む思いだったが、そうした現実と当事者の実感をしっかり受け止めて、居場所のない人がいない社会を作っていきたいとの思いを強くした。

大阪・箕面市 LPガスを利用した学校体育館のエアコン設置について(2019/07/01)

【日時】 令和元年7月1日(火)13:00~15:30
【視察先】 箕面市役所(大阪府箕面市西小路4-6-1)/市立箕面小学校(大阪府箕面市百楽荘1-8-7)
【視察者】 公明党立川市議団(門倉正子、瀬順弘、大沢純一)
【対応】 箕面市みどりまちづくり部建築室・室長 西田昭浩 氏/箕面市教育委員会 子ども未来創造局・学校施設管理室 中辻奈央 氏

 

視察では初めに、箕面市役所内で担当者より説明を聞いた。

箕面市には小中学校が全部で20校(小学校12校、中学校6校、小中一貫校2校)あり、平成29年度までに普通教室と特別教室の全室にエアコン設置が完了している。エアコンの空調方式は学校によってGHP(ガスヒートポンプエアコン)とEHP(電気エアコン)に分かれているが、これは学校に設置されているキュービクル(施設用の小規模変圧器)の容量に余力があるかどうかに依り、余力がなかった小学校を中心にGHP方式を採用した。一方で、箕面市では学校給食を全校自校式としているため、給食室を増設した際にキュービクルの電力容量を増やしたことで余力があった学校はEHP方式を採用したとのことであった。

このように、これまで箕面市は学校教室のエアコンにガス方式と電気方式の双方を採用してきた。そのうえで、小・中学校体育館へのエアコン設置では、あらためて「電気式」「ガスヒートポンプ(GHP)式」「輻射式」を、また燃料源としては「都市ガス」「LPガス」「電気」を比較検討した。
先ずは都市ガスとLPガスの比較であるが、災害時に配管が損傷して供給が行えなくなることがないこと、さらに災害時にも大阪府内の最寄り充填所から3日でガスの供給が可能であり、現地に3日分の蓄えがあれば非常の対応ができるということから、LPガスを優位とした。

さらに電気とLPガスの比較である。

設備の初期費用としては電気の方が安価であった。また、LPガスは設備が受注生産となるために、設置に時間を要するというデメリットもあった。
しかし、運用にかかる費用は電気の方が高くなることが判明した。これは電気には使用料のほかに「基本料金」が発生することが大きい。周知のように基本料金とは使っても使わなくても「基本的に」かかる料金で、エアコンの使用が比較的少ない季節(春や秋)でも一定の料金が発生する。これに引き換えLPガスには基本料金がなく使用料のみであり、ランニングコストとしてはLPガスが優位となった。設備費用(イニシャル・コスト)が電気方式を上回ったとしても、運用費用を含めた計算ではLPガスを採用することによって電気方式との設備費用の差額を8~10年で回収でき、運転期間として想定している15年間の積算費用では、LPガス方式の方が安いという計算となった。

上記のような費用計算とともに、災害時に早期供給が可能であるという理由から「LPガス対応のGHPと発電機」の採用に至った。

ただ、費用以外でもLPガス方式よりも電気式の方が優位である面もある。それは室外機の大きさで、GHP方式の室外機はEHP方式のものに比べ、およそ2倍の大きさとなる。そのために設置場所の広さが課題となる場合もあるようであった。

そうした設備設置に必要とされる場所の広さは、ガスの貯蔵方法でも課題となる。LPガスを使った災害対策の施設としては災害バルクが多機能で有用だが、箕面市では災害バルクは採用していない。その理由は設置スペースが広く必要なことに加え、ガスを充填する車両も大きくなり、設置場所によっては車両を近くに着けられないこと、さらにガス料金も高くなるということであった。そのため、箕面市ではLPガスの貯蔵にガスボンベを使っている。

上記のような理由で選定されたLPガスによるGHP方式のエアコンを、箕面市では小学校1校あたり6台、中学校1校あたり10台設置をしている。

設置の方法は「天井吊り型」と「床置き型」であり、状況に応じて体育館の高所通路(キャットウォーク)の幅が十分にある場合は「床置き型」とし、設置幅が足りない体育館では「天井吊り型」で設置をしている(費用は床置き型の方が安い)。また、エアコンに送風機を併用することで空調効率を高めている。ちなみにこの送風機は、担当職員の方が様々な方法を調査・研究(都内の自治体に視察を断られたことや、熊本県まで事例を視察に行ったりもしたという)をしながら設置したものであるが、後述するようにこれは大変効果的であった。これは担当職員の方の努力の賜物である。

質疑応答のなかで、立川市議会で行政側から示された、LPガスの危険性に対する懸念について聞いた。

これについて担当者からは、多くのタクシーがLPガスを燃料としたエンジンを採用しているが、それと同様のものが室外機のエンジンとして設置されていることの指摘があり、LPガスのタクシーが爆発したという事故を聞かないくらいの安全性があるという認識が示された。

市役所での説明の後、箕面市で最初に建てられた小学校である「市立箕面小学校」の体育館を視察した。

先ずLPガスボンベ庫を視察した。ここには常時50キログラムボンベが18本、合計900kgのガスが蓄えられており、使用メーターが回線で業者と繋がっているため、補充が必要になった場合でも学校側から連絡する必要がなく、業者が対応する仕組みとなっている。

そのガスボンベ庫に隣接する形で発電機を室外機が設置されている。ガスボンベと発電機を繋ぐ配管は地下で繋がっており、地震などで配管に損傷が及ぶことが100%ないとはいえないが、隣接していることで導線が短く、補修にあたっても損傷箇所の特定がしやすいとのことであった。

尚、ガスボンベ庫は特別奥まった場所にあるわけではないが、保護者などから危険性を心配する声があがったことはないという。

視察に訪れた日は気温26~27度、湿度70%ほどの曇り空で、蒸し暑い気候であった。その日はちょうど、民間業者による出張講座のようなものが行われており、体育館内には20人程の児童がいた。そのような状況下で稼働していたエアコンは、設定温度25度、風量「弱」で設定されていた。
体育館に入っての最初の感想は、湿気が感じられず、とても涼しいということであった。送風機は想像したよりも小型であったが、その効果は特に感じることができた。試みに送風機を、次にエアコンを切ってもらったが、それぞれ稼働しているときとしていないときの違いを明確に感じることができた。

箕面市では現在、授業として使う場合、その利用料金は市の教育委員会が負担をし(エアコンだけでなく、水光熱費は学校毎の負担ではなく、教育委員会が一括して負担しているとのこと)、地域の団体などが利用する場合は、小学校では1時間1,500円、中学校は同2,500円を徴収することとしている。その場合の利用はプリペイドカード方式で、利用者は教育委員会の窓口でカードを購入する。使用料が少し高いという声がないのか、と担当者に聞いたところ、ないわけではない、とのことであった。しかし、市内にある民間の運動施設でエアコンを使用した場合には、料金設定はおよそ倍であることから、そうした実態が分かるにつれて市民からの不満の声はなくなってきたそうである。

児童以外にもそのような形で日常的に市民が、体育館でエアコンを利用しているが、体育館内でエアコンによる風の流れが起こることにより、競技によってはそうした利用者から苦情があるのではないかと聞いたが、特にないという。例えばバトミントンの競技者からは、当然風の影響を受けてシャトルの動きが変わってしまうこともあるが、それも慣れで対処している、という声も紹介された。

肝心のエアコンの効き具合も聞いた。冷房の場合は稼働から30分ほどで、また暖房の場合は1時間ほどで効き始めるということで、利用者からもエアコンが効かないという声はないとのことであった。

さらに天井吊り型は据置き型に比べてメンテナンスが大変ではないかとの懸念も聞いたが、メンテナンスの中心であるフィルター掃除などは、天井吊り型でもフィルターが下まで降りてくる仕様になっており、据置き型と比べても特別大変ということではない、とのことであった。

【所感】

平成30年3月に学校体育館への設置が完了し、まず卒業式典で暖房の効果を実感したそうであるが、箕面市ではその直後、6月に大阪北部地震に見舞われることになる。箕面市では電気が止まり、隣の茨木市では都市ガスが止まったが、自立した供給源であるLPガスによって、箕面市の学校体育館では停電下でも問題なくエアコンが作動し、災害時の効果を実感したそうである。

今回視察したことで、あらためてLPガスの有用性とともに、懸念される安全性についても確認することができた。立川市議会で行政より示された懸念は概ね解消できるものであるといえる。

 

以上

福井県あわら市 小・中学生の学力向上の取り組みについて(2018/08/07)

【日時】 平成30年8月7日(火)13:30~15:30
【訪問先】 あわら市役所(福井県あわら市市姫三丁目1番1号)
【視察者】 公明党立川市議団(高口靖彦、山本美智代、門倉正子、瀬順弘、大沢純一)
【目的】 小・中学生の学力向上の取り組みについて
【対応】 あわら市教育委員会教育総務課教育総務グループ教育審議監(参事) 荒川誠 氏/同課長 房野信彦 氏

【報告】

福井県は学力水準が高いことで知られる。先日の報道でも、今年度に実施された全国学力・学習状況調査の結果について県教育委員会が『全教科で全国トップクラスを維持した』(2018年8月1日付朝日新聞デジタル)と公表している。
県下で精力的に学力向上に取り組んでいるあわら市を視察した。

全国的な少子化はあわら市でも顕著であり、平成27年度までは10校あった小学校も、28年度に2校、29年度に1校が休校となり、現在は小学校7校、中学校2校という体制になっている。同市では現在、中学校は平成22年度から、小学校は平成26年度から2学期制を導入している。立川市でも過去に導入され、その後3学期制に戻された経緯があるが、2学期制についてはあわら市では有効に機能しているということであった。

本年度(30年度)の全国学力・学習状況調査において福井県は中学3年生の数学、理科の成績が「11年連続上位維持」(8月1日付福井新聞)とされる反面、書く力や伝える力が課題とされた。高学力が維持されているなかにあって、そうした課題のもとに、あわら市ではさらなる学力向上のために多くの取り組みを実施している。

そのうちの一つが読解力の向上である。学校ごとに、たとえば読書目標を月10冊などと設定し、読書を奨励している。担当者からは「読解力は読書しかない」との見解が聞かれた。また、百人一首や論語などで古典学習にも力を入れている。

また、「福井型18年教育」として県が主体となり“生まれてから高校卒業まで”それぞれの学びの連携を強く意識した取り組みも行っている。これは保幼小の連携、小中高の連携であるが、夏休みの間に小学校教員がこども園に入ることや、こども園の保育内容についても小学校の授業を意識した取り組みを行っているという。

その他多岐に渡る学力向上の取り組みのなかでも、担当者から「これだけは参考にして欲しい」と言われたのが中学校における授業の「タテ持ち」であった。

1人の教師は1つの学年しか受け持たない(ヨコ持ち)のが通常であろう。これを、たとえばある数学の教師が1年生から3年生までの1組と受け持ち、もう一人の数学の教師が同じく1年生から3年生までの2組を受け持つ、というように、学年を縦断する形で授業を受け持つことを「タテ持ち」と読んでいる。こうすることで、同じ学年でもそれぞれの組で授業内容が異なることから、教師の間で切磋琢磨し競い合いが生まれるということであった。福井県では昭和の時代からこれが行われているということで、他では聞かれない福井県の教育の“普通”が紹介された。

また、「宿題の量が多い」のも福井県の特徴であるという。そもそも塾があまりなく、3世代が珍しくない家庭環境のもとで祖父・祖母が孫の宿題をみるというのが、これも“普通”であり、そうした環境のもとで、一般に塾に費やすとみられる時間(おおよそ2時間)を充てるだけの量の宿題が毎日出されるということであった。「先生が家庭教育にも責任を持つ」という考えを持っているという。

ここで当然の疑問として、教師の負担が大変大きいのではないか、ということがあがる。

「タテ持ち」の授業を行えば、教師は3学年分の授業を行う必要があり、一般的なヨコ持ちよりも必然的に準備に時間を要する。また、宿題を多く出すということは、その採点にも時間が掛かるということでもある。

教師の近年増大する仕事量をどう減少させていくか、が教育の大きな課題の一つとなっている中で、先のような取り組みについて教師から不満がでてもおかしくない。しかしそうした声はないという。その理由をたずねたところ、福井県民の「勤勉さ」にあるのではないか、ということであった。さらに、教員同士で時折行う懇親会の参加率がとても高く、そうした場でのコミュニケーションの深さも教員の仕事に対するモチベーションを高め、エンカレッジに繋がるのではないかとも分析している。

最後に、あわら市の今後の方針について聞いた。

平成29年度に策定されたあわら市の第2次教育振興基本計画では、その中心に「総合的な学力」と示されている。学力とともに、道徳心と体力の向上を備えることを「総合的」と表現しているが、「知・徳・体」を偏りなく育んでいくことが大事だと認識し、それが生きる力をつけていくことになるとしている。

そうした計画のもと、今後は“道徳教育”に力を入れていくことで、判断力を育てたいということが挙げられた。とくに、児童・生徒が自分たちで考えることを主体として、道徳の教科書を「自分たちでつくる」ことに取り組んでいるという。

さらに“英語教育”についても言及があった。あわら市の中学3学年の英検3級取得率は56.8%に上ることが紹介され、これは全国1位であるという。英検には3~4年前から力を入れてきたということで、これは県立高校受験で加点にもしている、ということであった。この英検については教師も積極的に取り組んでおり、高校英語教師の9割弱、中学校英語教師の6割弱が準1級を取得しており、この割合も全国でトップであることが紹介された。

【所感】

「普通のことを普通にやってきた。ところがそれを外(県外の方)から見ると『すごい』と言われる。」説明にあたった荒川氏から冒頭にこう述べられたが、あわら市をはじめ福井県で行われている学力向上の取り組みは、県民にとって特別なことではなく、日常の取り組みの積み重ねが、結果として学力を向上させているということであった。そしてそれは「勤勉」という県民性が大きく寄与しているであろうことが、担当者から繰り返し言及された。

福井県で育ち、福井大学の教育学部を卒業して県内の学校に赴任する教員が多く(とくに女性の割合が高い)、勤勉という県民性が薄まることなく教育現場に循環しているということで、他県から来た教師にもそういった気風が浸透しているということも聞いた。

しかし、学力向上の要因を「県民性」とされてしまうと、普遍的な取り組みとして展開が難しい。ここで担当者に県民性のウィークポイントも聞いた。少し考えたあとに「アピールが弱いことかな」と言われた(お米の産地である福井県は、もともとコシヒカリの発祥地だそうだが、今では新潟県の方が知名度が強いことを引き合いに、県民のアピール力の弱さを指摘していた)が、当然のことながら、福井県の県民性として他県より優れているところばかりでないはずである。

福井県の学力向上は、そうした自分たちの長所を活かした方法を掘り当てられたことに要諦があるのではないだろうか。

様々な施策を参考にしつつ、立川市民の強み、長所を活かす教育方法をこれからも探っていく必要性を強く実感した。

LINEを利用したいじめ・自殺相談事業(2018/01/23)

【日時】 平成30年1月23日(火)10:00~12:00
【訪問先】 長野県庁(長野県長野市大字南長野字幅下692-2)
【視察者】 公明党立川市議団(高口靖彦、山本美智代、門倉正子、瀬順弘、大沢純一)
【目的】 「LINEを利用したいじめ・自殺相談」事業について
【対応】 長野県教育委員会事務局心の支援課・企画幹謙課長補佐謙人権支援係長 竹内正樹 氏

【報告】
平成22年からの5年間で子どもの自殺率が全国一となってしまった長野県であったが、その対策にあたりLINEなどのSNS媒体を利用するということについては、庁内でも当初はまったく想定していなかったそうである。そこへLINE株式会社からの提案があったことで、今回視察した「LINEを利用したいじめ・自殺相談事業」を施行することになった。これにはLINE株式会社としても、いわゆる「LINEいじめ」といった、子ども達がLINEを利用することに対する負のイメージを払拭したいという思惑があったという。LINE株式会社としては、全国いくつかの自治体にこの事業提案を行ったが、そのなかで平成29年2月の長野県議会でのSNSを使った相談事業についての一般質問をLINE株式会社が見たこと、さらにLINE株式会社の出澤剛代表取締役社長CEOが長野県出身であり、阿部守一長野県知事がSNSに関心が高かったことで平成29年8月21日に事業の連携協定が締結された。

今回の事業は平成29年9月10日から23日までの2週間、「ひとりで悩まないで@長野」として試行。相談時間は17時から21時とした。県内全域の中学生、高校生12万人を対象者とし、相談体制は大阪にある「関西カウンセリングセンター」に委託した。民間のカスタマーサービス用のシステムを援用し、相談員10名・10回線(通常のカスタマーサービスでは、6回線ほどを一人で担当するそうだが、今回は1名1回線)で対応した。

事業の周知にあたっては、対象者である県内中高生約12万人にQRコードを記載したカードを配布したが、それ以外の媒体で周知は行わなかった。それにもかかわらず、登録者数が累計3,817人にのぼったことについては「想定外に多かった」。さらに相談については時間内のアクセス数1,579件で、そのうち対応できたのが547件であり、これまで行ってきた電話(SOS24時間ダイヤル)による子どもからの年間相談数259件(平成28年度実績)の倍以上となった。
尚、アクセス件数については「延べ人数」としているが、同じ人が1日に何度アクセスしてもその日は1回としてカウントしている。また、機能として相談時間外のアクセスもカウントでき、その人数は1,054件となった。その上で延べ人数ではなく実数としてのアクセス人数も掌握でき、その数は1,431人で対象者12万人の1%、2クラスに1人くらいの割合で利用されたとのことであった。

電話相談とLINE相談では相談内容に大きな違いが見られた。
これまでの電話相談では「交友関係・性格の悩み 36.3%」「いじめ 28.2%」などが内容の中心であった(平成28年度実績)。ところがLINE相談では「交友関係・性格の悩み 26.0%」を越えて一番多かったのは「その他」で、学業や恋愛などについての相談が47.8%と半数近くにのぼった。この結果について、LINEを使った相談では、思いつめる前の日常的な悩みを相談する傾向が見て取れる。LINEが身近なツールであり、その結果、気軽に相談ができたことが大きいと推測され、『「ひとりで悩む」子ども達に潜んでいた『相談したい気持ち』を掘り起こ』す効果があったと分析した。

今回の事業では相談(対応)時間を17時から21時までとした。これは全国の多くの学校や家庭で児童・生徒によるスマートフォン長時間利用が憂慮されており、21時以降も相談を受け付けることでスマートフォン利用を推奨するようなことになってもいけない、というのが理由とのことであった。一方でアクセス全体の2割ほどは深夜0時をまわった時間にあったそうである。
また、4千人近くの登録者数に対して、相談者は何人必要であったかを伺った。開始当初は5人で、その後は常時3人で対応したそうである。

今回は長野県としての事業であったが、担当者からは主に経費の面からある程度の広域行政でやるのが現実的であろう、との見解も示された。ちなみに長野県では平成30年度にも同事業を予定している。担当者によると60日間で1,000万円の予算計上になるということであった。

相談事業としてSNSを使うことの難しさも伺った。

LINEやtwitterなどのSNSは、おもに短文で投稿が行われる。それが生徒の文章力を低下させていると推定され、文章で思いをうまく伝えられない(相談を受ける側が思いを汲み取るのが難しい)ことが少なくないという。そのため、相談を受ける側としては声での会話以上に相談者の声(文章)を聞く必要があり、一人にかかる時間も長くなる。実際にこれまでの電話相談では一人にかかる時間の平均は20~30分ほどであったが、LINEでの相談には平均50分を要している。
そういった文字を通しての相談スキルの向上が、今後の大きな課題であることが示された。
また、SNSの匿名性から、緊急性の高い事案が発生したときの学校との連携も課題にあがった。

 

 

【所感】
一般論として緊急性の高低から判断したときに、いじめや交友関係といった悩みは、不登校やひいては自殺を考えることに繋がってしまうと考えるが、もとより個人の悩みを他人が重い、軽いと判断する資格はない。実際に長野県では、相談内容の集計としても「その他」に分類されている学業や成績の悩みから自殺に至ってしまった、という例がこれまでに何件も見られたという。

そうした、これまでにSOSを発信することができなかった人たちが、あらたなツールによって相談できることが明らかになったというこの事業の成果は大きい。とくに自殺対策には「誰かに相談する」ということが最も大切である。「誰も自殺に追い込まれることのない社会」をつくるための計画策定が基礎自治体に義務付けられたが、SNSを使った自殺対策は、他の世代に比べて減少が見られない若い世代に対して、その対策の中心に位置づけられる重要な施策と考える。

視察では基礎自治体では財政的な負担が大きいことから、広域での実施が現実的だとされた。財源としてはそうした取り組みになると考えるが、市民に一番近い自治体が事業の有効性を認識できるかどうかが、事業の前提として重要になるであろう。この事業については今後、立川市から自殺をなくすためにも大いに見識を深めたい。

2018年1月31日

【環境建設委員会】大阪・高槻市 雨水対策アクションプラン(2017/10/12)

【日時】 平成29年10月12日(水)10:00~12:00
【視察先】 高槻市役所(高槻市桃園町2-1)
【視察者】 佐藤寿宏委員長、大沢純一副委員長、梅田春生委員、永元須摩子委員、福島正美委員、谷山きょう子委員、江口元気委員 全7名
【目的】 「総合雨水対策アクションプラン」視察
【対応】 高槻市都市創造部下水河川企画課・課長 寺町豊 氏、高槻市都市創造部下水河川企画課・課長代理 西田朋弘 氏、高槻市都市創造部下水河川企画課・副主幹 中川大樹 氏

【詳細報告】

「高槻市総合雨水対策アクションプラン」は、ハード対策、つまり下水管や雨水貯留施設の整備とともに、市民の自助や共助も求めるものとなっている。

ハード面では計画降雨量(時間48ミリ)に基づく下水管整備を行ったうえで、豪雨時対策として雨水を溜めるための貯留施設を整備する。
さらにそうした貯留施設でも受け止めきれずに雨水が溢れた場合には、公共施設を整備して流水抑制を行なうこととしている。
それと併せて高槻市ではハザードマップを平成29年6月に更新し、災害に備えた活用を市民に求めている。

今回の視察でとりわけ関心が高かったのが、雨水対策としての公共施設の整備であった。

高槻市では市内の小・中学校の校庭に豪雨時の溢水を一時的に溜められるように整備を進めている。
同じような整備は横浜市でも行われているそうであるが、高槻市の例では、学校の敷地が地形的に傾斜をしていることを利用して校庭に溢水を貯め、周辺に流出しないような対策ということであった。

そのような大規模な対策ではないが、「土のうステーション」も関心が高かった。
立川市でも非常時に土のうを配布しているが、やはり災害は平時からの備えが重要である。
高槻市では市内63ヶ所の公有地に土のうを格納し、地域の防災力としている。
ちなみにこの土のうステーションの設置費用は一基あたり設置費込みで50万円ほどという回答が担当者からあった。

この他、雨水流水抑制と保水のための施策として、希望する世帯への雨水タンクの設置補助(上限1万円)や雨水浸透・保水に効果が高いとして農地などの緑地保全などもこのアクションプランに盛り込まれている。

平成24年の豪雨以降、時間48ミリを超える豪雨は数回で、また短時間だったことから大きな被害は発生していない。
しかし近年の気象状況から将来的な豪雨による被害は当然予想される。
高槻市では今後、都市計画として進める立地適正化計画のもとで中心地に貯留施設を整備した都市の集約も視野に入れているということであった。

【所感】

高槻市内を流れる淀川や芥川といった河川は、ともに市街地よりも水面が高い「天井川」である。
過去には大正6年に淀川、昭和28年に芥川などが台風による大雨で決壊した。
さらに昭和42年の豪雨でも、河川の決壊が起こっており、市民の豪雨災害の意識は高いと思われる。
それが防災のための都市の集約ということにも繋がっていくのであろう。
都市の集約=コンパクトシティというと、どうしても日常生活をもとにしたものという発想になるが、防災を中心においたまちづくりということは重要な視点であると感じた。
校庭を利用した雨水貯留というのも対策として大いに参考になった。
立川市における防災も豪雨対策は喫緊の課題である。今後も様々な施策を参考に、立川市の安心・安全なまちづくりを行ってまいりたい。

【環境建設委員会】兵庫・神戸市 街路樹再整備方針について(2017/10/11)

【日時】 平成29年10月11日(水)10:30~12:00
【視察先】 神戸市役所(神戸市中央区加納町6-5-1)
【視察者】 佐藤寿宏委員長、大沢純一副委員長、梅田春生委員、永元須摩子委員、福島正美委員、谷山きょう子委員、江口元気委員 全7名
【目的】 「神戸市街路樹再整備方針について」視察
【対応】 神戸市建設局公園部整備課・整備課長 原田充 氏、神戸市建設局公園部整備課維持補修掛係・維持補修係長 金広慎二 氏

【詳細報告】

昭和45(1970)年に日本で光化学スモッグが初めて問題化され、その翌年には環境庁が発足するなど、環境問題が顕在化するなかで、当時の市長であった宮崎氏が1971年からスタートした「グリーンコウベ作戦」事業。
これは市街地の緑化によって市民の健康を高める施策で、市域の7割を緑地として保全することを目指し市電を廃止して緑地帯とするなど、積極的な緑化事業であった。

その施策の結果、開始当時1.7万本であった街路樹は、現在では46万本まで増加し、緑化は確実に進んだ。
その過程で早期に緑量を確保する必要性から樹木の剪定を行わない「無剪定方式」を採用したが、それによって樹木の成長を管理できずに「型」をつくることができなかったという現状を生んでしまった。
その結果、現在では計画的に街路樹を剪定する必要性を抱えている。
街路樹に対する市民の要望も、その半数が剪定に対するものという結果が出ている(平成28年の市民要望1,442件のうち47%が剪定に関するもの)。
46万本まで増えた街路樹のうち、高木は約13万本であるが、これは他の政令市と比べても人口あたりの本数は突出している。

まちに緑が溢れる一方で、人口減少が始まっている同市にとってはその維持管理が財政負担の課題の一つとなっている。

そうした現状の下、神戸市では将来に向けた街路樹の適正配置などあるべき姿を示す「街路樹再整備方針」を平成29年4月に策定した。

この方針で示された課題は、立川市でも多く共有できる。

まずは街路樹の老木化による倒木の危険性である。
「グリーンコウベ」が始まって40年以上が経過をし、街路樹も老木となった。また街路樹だけでなく、昔から地域にある樹木も当然、樹齢を重ねている。
倒木の原因は樹木内部が空洞化してしまうことにあるが、それは外観からは分からない。
倒木に至らなくとも、成長した木の枝が張り出して交通の邪魔になる等の支障もある。
根上りも道路環境を悪くし、通行の支障になる。

そうした環境や安全の確保のための維持管理費は、当然樹木の数に比例する。
人口減少社会を迎え、今後の自治体税収も減少が予想されるなかにおいては、街並みとの調和を図ったうえでの街路樹の適正化を行っていくとしたのが、この「街路樹再整備方針」である。尚、この方針のもとでの適正化の方向性は総量規制ということであったが、神戸市では人口比としても街路樹の数が多いことから、実質的には総量削減ということになる。

この整備方針のもとで、街路樹の更新(植え替え)とともに重要なのは適切な剪定作業である。
樹木の剪定が実際の景観に大きく影響するため、神戸市は業者に対しては年1回の講習会を行っている。
神戸市では剪定作業を造園業者(市内3社)に委託しており、作業にあたっては仕様書も当然ある。
しかしその上で品質を確保するための講習をして景観を保っているということである。
さらに「シンボル路線」としている都心部や観光地などの街路樹の管理にあたっては、街路樹剪定士という有資格者を導入して質の管理を行っている。

【所感】

神戸市の「街路樹再整備方針」は、その内容について目新しいものがあるわけではない。
しかし、こうした今後の総体的・具体的な方向性を示すことで、なぜその樹木が更新されたのか、というような、市民への説明をしっかりはたしていくことができる点でも大切なことだと考える。
また、街路樹をはじめとした街の緑化は、市民の安らぎや潤いといった精神衛生上も重要なものである。

一方でそこに費やすことのできる予算は限られており、その予算の中で効率的な管理が求められるということ、さらに今後の税収減を見込んだ対策の必要性は立川市も同様である。
そうしたなかにあって、神戸市では街路樹の剪定作業を専門業者に委託しているだけでなく、業者に対して毎年研修を行っているということが強く印象に残った。
長く緑化事業を進めてきた神戸市では、価格だけでなく、どう品質を確保するかを優先している。
立川市においても街路樹管理には課題がある。
今回の神戸市の事例を大いに参考にしながら、市民が愛着を持てる街路樹を目指してまいりたい。 以上

【環境建設委員会】兵庫・神戸市 下水道ネットワーク(2017/10/10)

【日時】 平成29年10月10日(火)13:30~15:00
【視察先】 神戸市役所(神戸市中央区加納町6-5-1)
【視察者】 佐藤寿宏委員長、大沢純一副委員長、梅田春生委員、永元須摩子委員、福島正美委員、谷山きょう子委員、江口元気委員 全7名
【目的】 「災害に強い神戸市下水道ネットワークシステムについて」視察
【対応】 神戸市建設局下水道部計画課・計画係長 坂本憲治 氏 神戸市建設局下水道部計画課・岩出郁美 氏

【詳細報告】

神戸市の下水道整備は外国人居留地から始まり、古くは1872年(明治5年)の整備の記録が残る。
その後、人口増加とともにし尿処理が環境問題化するにともない、1951年(昭和26年)に市域の下水道整備に着手。特に1970年からの5年間で重点的な政策として整備が急速に進み、現在では汚水管全長が約4050km、雨水管は約650kmで普及率は98.7%に及んでいる。
尚、神戸市の下水道は平地である東灘処理区の一部を除いた全域で分流式となっている。

平成7年1月17日に起きた阪神・淡路大震災、兵庫県南部地震では、その影響で当時建設中の明石海峡大橋が当初の計画より橋長が1メートルも伸びたということだが、そのような大きな地盤の変化が起こるほどの震災で市民生活は大きな困難に見舞われた。
当時、神戸市の下水処理施設はそれぞれ単独で稼働していたため、一つが壊れると代わりがないという状況であった。
そのため、とくに市民生活においてトイレの問題が顕在化し、当時の新聞に「トイレもライフラインだった」との見出しが大きく載るほど、トイレ環境の重要性とともに、災害時の影響の深刻さが再認識される事態となった。

そうした経験を経て、市内4箇所の下水処理施設をネットワークで結び、災害に強い下水道とするとともに、日常的にも安定した処理能力を有するものにすることを神戸市では進めてきた。
これが「災害に強い神戸市下水道ネットワークシステム」である。

このシステムは、具体的には以下のようなものである。

神戸市の下水処理は自然勾配(傾斜)で汚水を流すという方式を取っている。
災害時に一つの処理場が使えなくなった場合や一時的に処理能力を上回る流入があった場合でも、下水道幹線の高低差を利用して他の処理場に汚水を送水することで、地上への溢水を防ぐことにしている。
また、そういった事態の際には、このネットワーク幹線を利用して他の処理場に汚水を送ることになるが、その場合には法定の範囲内で処理能力を落とし、時間あたりの処理量を増やすこととしている。
その結果、処理場ごとの容量は災害時を想定して平時に対してオーバースペックの規模のものを整備する必要はない。
また、1日の間で変動する汚水量に対して、従来の汚水管よりも太い管を整備してネットワーク幹線の中に貯めることで、処理場の能力を超えた下水の流入を防いでいる。

説明では処理場を繋ぐことで、一時的に下水処理を他の施設で行なうことができ、処理場の改修、改築なども比較的容易に行うことができるという利点も示された。
神戸市ではこうした取り組みのほか、処理された下水の有効活用も行っている。
その一つが兵庫区松本地区で歩道の設けられた「せせらぎ」である。
これは震災時にこの地域の消防水利が枯渇したという経験から、非常時の水源として利用を想定しながら、市民の憩いの環境ともなっているものである。

さらに震災時のトイレ確保の必要性の認識から、公共下水道を利用した仮設トイレの整備を進めている。

これは市内60校の公立学校で行われているもので、災害時に学校プールの水を洗浄水として利用し、その汚水を流す下水道を整備するというもの。
これは同じく大地震を経験した熊本市でも今後整備が進められるほか、国交省も推奨する事業である。
一方でこのネットワークについては、課題も示された。
神戸市の下水幹線の特徴として自然勾配を利用していることがあるが、特に長距離(8キロメートル)の幹線において勾配の関係から汚水の流速が遅く、この間に汚水の腐敗が進んでしまい硫化水素が発生するということがあるという。
この対策が今後必要とのことであった。

また、不明水の課題も言及された。

こうした処理場のネットワークは物理的な距離が課題であり、今後、神戸市ではそうした問題意識のもと、まちの機能を集約していくコンパクトシティに向けた取り組みも検討中であるということが最後に示された。

【所感】

最重要の生活インフラの一つである下水管と処理場の安定的な稼働は、行政の仕事の第一である。

立川市での下水処理は、これまでの市単独の処理から今後は東京都の下水処理場に移ることになるが、そのような広域での下水処理事業を見据えたときに今回の視察は大変参考になった。
とくに下水道という市民生活に大きな影響のあるインフラに対して、災害時の備えや想定については様々に見識を深めていくことが必要であると感じた。
こうした全国各地での事業などを、今後も積極的に学んでいきたい。

第9回生活保護問題議員研修会(2017/08/25〜26)

【日時】 平成29年8月25日(金)~26日(土)
【研修先】 信州大学長野(工学)キャンパス(長野県長野市若里4-17-1)
【参加者】 大沢純一
【内容】 第9回生活保護問題議員研修会

【詳細報告】

第9回となる生活保護問題議員研修会「「貧困対策はどこに向かうのか 長野で生活保護を考える」と題して信州大学長野(工学)キャンパスで行われ、今回初めて参加した。

2日に渡る研修の1日目では、最初に花園大学の社会福祉学部教授であり人権教育研究センター所長の吉永純氏が基調講演を行った。

講演では、ここ数年間で貧困関連書籍の出版数が増えていることを紹介し、この問題の関心が高まっていることを指摘。実際に厚生労働省が示すデータ(「平成28年国民生活基礎調査の結果」(2017年6月27日))でも、およそ国民の6.4人に1人が貧困状態にあることを紹介した。
さらに、等価可処分所得の中央値が平成9年をピークに低下しており、その中央値の半分(貧困線)とされる相対的貧困率も上昇傾向にあることが示された。そしてその相対的貧困率を属性でみた場合、男性では20代が最も多く、女性では70代が多いことに言及。女性は年金の問題で高齢になると貧困率が上昇するとした。

そうした経済状況のもとに高齢者世帯の生活保護率が増加している。
厚生労働省のデータ(2017年1月20日厚生労働関係部局長会議資料)でも平成25年12月以降は高齢者以外の世帯では前年同月比で世帯数がマイナスになっているのに対して、高齢者世帯だけが一貫してプラスとなっている。

そのなかで2013年からの生活保護費の引き下げは影響が大きいことを指摘した。

具体的には生活扶助費が最大で20,000円削減され、住宅扶助費も最大で8,000円削減されたことで、高齢者ではおよそ5割の世帯で月2,000円、年額24,000円。母子世帯の6割以上で月10,000円、年額120,000円もの影響があったとした。こうした生活保護世帯では近年の食品価格の上昇もあり、家計のエンゲル係数が高まっている。

一方で生活保護に対する世間の見方は厳しくなっており、制度としても資産申告書の年1回提出が「義務化」されたことや、就労支援が生活保護受給者の状態をわきまえないで行われることなどが問題とされた。また、医療扶助費の増加原因として生活保護では無料で受診できることが問題という声も聞かれるが、生活保護受給者が他の患者よりも受診回数が多いというデータは存在しないことも指摘された。

そうした現状のもと、議員として各自治体の生活保護行政をチェックする必要や、子どもをはじめとした貧困の実態を調査して、一般市民と生活困窮者・生活保護者の課題を同列で扱い、分断を生じさせない取り組みをすることを求めた。

基調講演に続き、貧困や家庭問題などを扱う漫画家である、さいきまこ氏が「メディアから読み取る「生活保護と子どもの貧困」を題して講演を行った。

さいき氏は最初に、「自己責任」という言葉が広まっている現代で、貧困は本当に自己責任なのか、との問題を提起した。
この自己責任論の根底にあるのは「格差の肯定」であるとし、一例として2014年に千葉県銚子市でおこったシングルマザーが中学2年生の娘を殺害した事件を挙げた。
これは「お金の不自由はさせたくない」という母の思いが借金を重ねることになり、家賃滞納で退去を求められた母が自身も自殺をするつもりで娘を殺してしまった事件である。
この事件に対しては「我慢させるのも教育では」という世論が起こったが、それは家庭の貧困という子どもに何の責任もない「格差」を肯定することになり、お金がないなら「分をわきまえるべき」と言っているのに等しい、として自己責任論を否定した。

そして貧困を理解するのに必要なのは想像力ではなく知識だとして、報道等で伝えられた様々な声を紹介しながら、貧困の実態を伝えた。

続いての講演では、健和会病院小児科医の和田浩氏が医療現場から見える子どもの貧困を伝えた。

講演では所得における子どもの健康格差としてカナダのデータが示された。
そこでは貧困層の子どもは健康状態が悪い割合が大きいこと、さらに健康状態の格差が10代で差がでてくることが分かる。
和田氏は、こういったデータは海外では多いものの、日本ではほとんど調査が行われていないと指摘。子どもの貧困がプライバシー等の問題で公表されないことが、世間での「子どもの貧困は感じられない」という声に繋がっているという。

また、世帯の仕事状況により乳児の死亡率が異なり、無職である世帯は常用勤労者の世帯よりも死亡率が10倍近く大きくなるという統計も示された。

さらに子どもの学力の面では、低所得者世帯で3時間以上勉強する層よりも高所得世帯でまったく勉強しない層の方が成績が良いという分析も披露。貧困と子どものQOLの相関を指摘した。

和田氏は医師としてこうした貧困世帯を見たときに「おそらく発達障害を持った人が多い」と言及。そのなかでは発達障害の治療をできないまま大人になった人も多いのでは、と認識していると言い、子どもの貧困を援助するにあたっては発達障害について学ぶことが力になる、とした。

その他、1日目の報告では、議員として各自治体の生活保護行政に対するチェックの仕方などが示された。

2日目は「子どもの貧困と自治体のとりくみ」についての分科会に参加した。

子どもの貧困については、2009年に国が「子どもの7人に1人が貧困」と発表したことから、この年が「子どもの貧困元年」とされる。

分科会では、世田谷区の元職員で全国公的扶助研究会運営委員や生活保護問題対策全国会議事務局次長を務める田川英信氏と、NPO法人・CPAO(シーパオ)代表の徳丸ゆき子氏が子どもの貧困の実態と様々な支援の取り組みについて伝えた。

田川氏からは、生活保護世帯の子どもが義務教育を終えて高校や大学に進学する際の生活保護制度の課題について、具体的ケースを交えて様々な説明がされた。

たとえば、生活保護世帯の場合、高校で学ぶための費用は生業扶助として支給されるが、修学旅行やクラブ活動の費用は扶助されない。
その費用捻出のためにアルバイトをした場合に、月26,600円までなら収入認定されないが、これも事前に申告が必要で、申告しなければ不正受給とみなされてしまうこと。それ以上の収入があった場合にも、事前にケースワーカーと相談することで、修学旅行の積立金として収入認定されない方法があるなどが紹介された。
また、こういったアルバイト収入については、子ども達が生活保護制度のことを知らずに悪意なく申告しないことがあるか、ケースワーカーが丁寧に説明していない場合や、親が子どもに生活保護を受給していることを伝えていない場合などもあるなど、運用上の課題も示された。

徳丸氏は団体が進める「大阪子どもの貧困アクショングループ」の取り組みについて紹介。
シングルマザーの調査を通して、暴力の連鎖や当事者がSOSをなぜ出せないのかということなどの実態を報告した。

またここでも自己責任論では子どもを救うことはできず、社会全体としてのサポートの必要性が求められることが指摘された。

昼食を挟んだ午後では、慶應義塾大学経済学部教授の井手英策氏が登壇。
「誰もが受益者」という財政戦略と題して講演した。

井手氏は現在社会の不安の原因を「貯蓄できない」こととした。
これまでは社会保障として足りない分を個人の貯蓄が埋めていたが、世帯収入が減っている(この20年で約2割低下)ことで貯蓄できない世帯が増加。
そのことが将来不安に繋がっていると指摘した。

しかし、平均所得が低下しているにもかかわらず、内閣府調査では自身の所得階層を「中所得」と認識している割合は92.1%に及ぶ。
この実態は「自分は中の下で踏ん張っていると信じたい人が大勢いる」ためで、その状態で低所得者対策をすると、その施策からもれた低所得者がさらに低所得の層に対して不満を募らせることになる。階層分けする支援が分断社会を形成するとした。

そうした分断社会を終わらせる解決策として、「お金で人間を区別しないという哲学」を強調。
これまでの個人の貯蓄に頼る社会ではなく、相応の税を国民全員で負担をすることで、それを社会的な貯蓄として平等に分配することを提案した。
そうすることで結果的に①格差が縮小②経済成長力が強まる③財政が再建すると力説。
「頼り合える社会」をつくっていくべきだと述べた。

【所感】

この研修会の大前提として党派を超えたものであるはずであったが、講演者の一部に特定の党派の主張に偏った意見が見られた。(それについてはアンケートで指摘させてもらった。)
しかし、それはある意味些末な問題であって、貧困問題に長く関わってきた方々の実体験や具体例を通した報告は大変勉強になった。

生活保護は大変複雑な制度になってしまっており、知らなければ支援につながらない場合も少なくない。
困窮する市民を適切な支援につなげるためにも、知識のブラッシュアップが必要なことを強く感じた。

さらに個人的に今回の研修会での最大の収穫は井手英策教授の講演であった。
不勉強から教授のことをこの研修で初めて知ったが、現代社会を覆っている「不安」の原因が「貯蓄ができないこと」にあるとした分析は、わが意を得たものであった。

また全体を通して研修会全体を通して「自己責任論」が貧困問題の通奏低音である感を深くした。

貧困の解消は政治にとって最優先の課題であり、大変有意義であった今回の研修を、今後の活動にしっかり活かしてまいりたい。

愛知・半田市 マイレポはんだ (2017/05/22) 

【日時】 平成29年5月22日(月)13:00~15:00
【訪問先】 半田市役所(愛知県半田市東洋町2—1)
【視察者】 公明党立川市議団(高口靖彦、山本美智代、瀬順弘、大沢純一)
【目的】 「マイレポはんだ」事業について
【対応】 半田市企画部市民協働課・課長 加藤明弘 氏、半田市企画部市民協働課・主査 山田隆康 氏、半田市企画部企画課・広報情報担当 岩田竜一 氏

【報告】
半田市ではスマートフォンアプリ「FixMyStreetJapan(フィックスマイストリート・ジャパン)を活用した市民協働の取り組みである「マイレポはんだ」という事業を行なっている。
これは市内の道路の陥没や公共施設の破損などをスマートフォンアプリを使って市民に通報してもらい、行政が修繕などの対応を行うというもの。
同様の取り組みは、別府市や郡山市など全国7市で行われているが、そのなかでも先駆けて取り組みを始めた半田市で担当者から話を聞いた。

 

平成26年度10月から運用開始された事業であるが、最初の実証実験は平成25年7月から8月にかけて行われている。
実証実験に至ったきっかけは、その直前の4月に放送されたNHK番組で千葉市でのFixMyStreetJapanを使用した取り組みが紹介され、それを市職員が見たことであったという。
それまでも行政としては1年間で市内全域を一周する道路パトロールを実施していたが、言い換えれば一地点を年一回しか見回れないことに課題を感じていた。この問題意識を強く感じていた職員の一人(30代職員だったという)が同番組の放送で千葉市の取り組みを見たことから庁内で実証実験が開始された。
最初の実証実験は職員だけで行われた。職員が対応可能なものであるのか、使えるアプリなのかといった角度から検証をし、翌26年1月からは市民の参加を得て市内全域での実証実験に入った。そのような経過を経て26年10月から本格運用されている。

このFixMyStreetJapanというアプリは、市民がスマートフォンで撮影した写真とGPSを使った位置情報とともに破損の状況などのコメントを送信すると、アプリの地図上にそれが表示されるというものである。
行政担当者はそれを見ることで、現地に赴くことなく状況が把握できるだけでなく、投稿を確認したこと、さらに問題に対応したことを市民に(相談した市民だけでなく広く市民に対して)知らせることができる。つまり行政対応の透明化、いわゆる見える化に繋がるものである。さらに市民にとっては、自分の声(意見)が行政に届いているという実感にもなり、行政に対する参画意識も高まる。また、多くの市民の目で市内をチェックしてもらうことで、なかなか行き届かない課題や問題の掌握ができることが期待できる。

 

 

また、行政窓口が市民に対応できる時間は日中が主であり、夜間に帰宅する市民が行政に相談できる機会はごく少ないのがこれまでの常であった。しかし、こうしたアプリを経由することで時間帯を気にすることなく相談できることも、市民にとっては大きいメリットであるが、これは市民ばかりではないという。
半田市でも休日対応ということで職員が市役所に待機しているが、これまで市民から道路の補修についての相談があっても、電話では状況が伝わりにくいこともあり、緊急性が高い案件であるのかどうかは、実際に現場を見てみないと分からないことも少なくない。そのため、職員が休日に急遽現場に行くこともあったが、このシステムでは画像で判断することができるために無駄な業務を減らすことができる。

 

むろんこれまでもそうした要望、相談は自治区(自治会)からの住民要望や市長への手紙、あるいは電話やメールといった様々な手段で行政へ届いてきた。その上でこうしたシステムを始めるのは、市民の声を聞く手段を増やすという位置づけと考えており、これまでの既存の手段が使いやすい市民はそちらを使ってもらい、このシステムが使いやすいと思う市民に使ってもらうという考えで運用している。実際にこの事業が始まったからといって、これまでの手段による相談が減ったということはなく、これまでの手段では行政と繋がりを持たなかった層がこれを利用していると分析している。(ちなみにこのシステムを利用するにあたっては、市民はメールアドレスとニックネーム(本名である必要なない)を登録するだけであるため、利用者の属性を知ることはできない。市民の声から判断すると、おそらく男性の方が多いのではというのが担当者の感想であった。)

では実際にどれほどの投稿がされるのか。3カ月の実証段階を経て本運用を開始した半田市では、報道メディアに取り上げられた実証段階で1日平均1.07件、本運用の約2年半の間では1日平均0.61件という状況である。夏場に相談件数が増加し、冬場に減少するという傾向があるが、このシステムを導入したことでこれまでの業務の負担になっているということはないということであった。むしろ業務にあたり初動の効率化が図れることの効果の方が大きいという話があった。

また、運用にあたっては不適切な投稿への対応も懸念される。半田市ではこれについて当然ガイドラインを持っている。いわゆるいたずらに類する不適切な投稿(誹謗中傷、差別、プライバシーの侵害など)について、市で非表示の対応をとることになっているが、これまでそういった投稿は発生していないということであった。

ただ、相談対象の背後などに写ってしまっている自動車のナンバープレートというような個人が特定される写真が投稿されることは度々発生しており、その際には画像の加工をおこなっているそうである。

将来的に、不適切な投稿が頻発することで通常業務に支障をきたすことが起きた場合には運用を中止するということも予め取り決めている。

半田市での現在の課題としては、一つに利用者が頭打ちなことが挙げられる。今後は半田市でも人口減少を迎えるなかで、本システムには多くの市民の参加が望まれる。これは業務効率化とともに、後述するが市民協働、市民参画ということからもこうしたシステムへの参加を求めているが、市民の認知度がなかなか上がらないということが課題となっている。現在は高齢者のパソコン教室などの際にこのシステムを説明して、市民への周知に努めている。

また別な課題としては、関係機関との連携がある。

市民からの課題・問題について、対応を「見える化」することがこのシステムの大きな意義の一つであるが、市で解決できない課題、たとえば県や国の管轄である問題については、市としては関係機関に連絡をする、という対応に留まらざるを得ない。

このシステムの活用では、投稿された問題の約36%が7日間以内で解決をしている。しかし、そのほとんどが市の問題であり、管轄外の問題になると解決できたかどうかが不明確で、市民に対してなかなか結果を明示できないという。

そうした課題はあるが、半田市でこの事業を中止するという考えはない。市長がこうしたオープンガバメントというものに積極的に取り組んでいることが大きな理由だ。

オープンガバメント、行政の見える化をなんのために取り組むのかと言えば、課題・問題を市民と行政が共有し、共に解決に向かう基盤をつくるためである。その理念のもとに、マイレポはんだを通じて市民の自発的に問題解決に取り組む仕組みをつくることを半田市は目指している。

(資料は半田市企画部企画課より提供)

 

 

 

 

【所感】
これまで立川市議会において何度かこのシステムの導入を求めてきたが、今回視察に伺ったことで、あらためて必要性を強く認識した。
市民としては、行政対応の透明化、見える化になり、自分の投稿で街が改善されるという実感、地域への貢献が実感できる。一方、行政の側も、多くの市民から情報提供を受けることで、なかなか目の行き届かない課題・問題が把握できることや現地確認の初動の効率化など、業務改善に繋がるものである。
また、同システムは災害時対応も可能なものであるが、災害時に位置情報と画像を投稿できるシステムを用意しておくことは、とても重要である。こうしたシステムの活用に日常から慣れることは、災害時に大きな効力を発揮する。

地域の要望、対応については、私たち議員を通じて行政に依頼をする、ということも多い。そうした市民の声を伝えるというのも議員の役割ではあるが、本質的には議員を通さなくても市民の声が行政に届く仕組みをつくることこそが、私たち議員の役割だと思っている。今後、行政に対して、あらゆる機会を通じで導入を求めていきたい。

 

2017年6月13日